黒紫の魔力
その場にいた全員が目を剥く。ショルシエも含めてだ。
飛び出して来た3枚のメモリーはふわふわとバハムートの死体の上で浮いており、何が起こったのか把握が出来ていない私達は慌てるようにしてそれぞれ対応に奔る。
「ちぃっ!!」
「渡すかっ!!」
ショルシエが尾を番長が影の手をそれぞれ伸ばし、バハムートのメモリーの奪取を図る。
あのメモリーが今回の戦いの発端。しかもあれが【ノーブル】の手にあり続ける限り、人類は再びバハムートの脅威と向き合う事になる。
それだけは避けなくてはならない。
「くっ!!」
しかし、番長の影の手は距離的な不利もあって一歩届かなかった。苦々しく表情を歪める番長と勝ち誇った顔をするショルシエだけれど、ここでまた想定外が起こる。
メモリーを掴んだショルシエの尾が、強く弾かれたのだ。
これには再び全員が目を剥いた。メモリーが一人でに飛び出すこともそうだけど、所有者を拒んで来るなんてことも今まで一度も見聞きしたことが無いから。
「生意気なトカゲめ……っ!!小娘に殺されて自我を取り戻したか!!」
悪態をつきながら何度となくバハムートのメモリーに尾を伸ばすけれど、その全てがことごとく弾き落される。
完全に意思を持った動きだと思う。明確な意図を持ってショルシエを拒んでいるそのメモリー達はやがてその場でくるくると回り始めると、勢いよくこちらに飛んで来た。
「?!」
「カレジ!!」
「承知した!!」
何処かに逃げ出すのでは?とは思っていたけど、まさか私達の方向に飛んでくるとは思わなかった。
私は咄嗟に医療班の人達を押し退け、下がらせてから未だ呆然としているアリウムを守る為に前に出る。
勢いよくで飛んでくるメモリーに番長は雷属性を持つカレジに対応を指示する。速さが売りの一つである雷属性なら、対応もしやすいと思う。
実際、カレジはメモリーを素早く捕捉し、鋭い爪で叩き落しにかかる。
「むっ?!」
バハムートのメモリーはこれすらも弾き、追撃を数度仕掛けるカレジのそれを全てやり過ごしてしまった。
メモリーの状態だって言うのになんて戦闘能力の高さなのよ。こちらが見くびってたって考えてもただの道具が自我を持ってこちらを撃退するなんて普通は考えない。
そうしてカレジも難なく突破されてしまって、バハムートのメモリーは私達の方へと向かって来る。
「アリウムが狙いね?!」
狙いは魔力が豊富で今は弱っているアリウムだと判断して、私は魔力切れになりそうで動かすのもしんどい身体を無理矢理動かす。
両手に剣を構え迎撃の構えを取る私にバハムートのメモリーは一直線に飛んで来て、私もそれ目掛けて剣を振る。
「ちょろちょろすんじゃないわよ!!」
狙いが小さいとは言え、寸分違わず狙って振るった剣を難なく避ける様子に舌打ちをしながら、私達の周囲を回る3枚のメモリーを目で追い、狙いを定めて次々と剣を振るう。
ちょこまかと、時にアクロバティックな動きでそれを避け続けるから更にムカついて来る。
遊んでいるんじゃないかとも思えて来るわ。私に倒されたんだから、もう一度くらい叩き切られておきなさっての!!
思わず声を荒げたい気分になるけど、荒げたところでどうしようもない。せめてアリウムから引き剥がすことくらいしないと。
そう思って、剣を振り続け、番長やカレジもそこに加わろうかという時にバハムートのメモリーはその動きを突然変えた。
「うぐっ?!」
突如軌道を変え、私に向かって飛び込んできた1枚が私の胸に突き刺さる。いや、突き刺さってはいない?肌から痛みを感じるようなものではない。
ただ、代わりに膨大な魔力が私の中に急に現れた。私やリオのとは全く別の魔力だ。
これは、もしかしなくてもバハムートの魔力?
突然身体の中に現れた膨大な量の魔力のせいでひたすらに苦しい。耐え切れずうずくまった私に、更に残りの2枚も飛び込んできた。
「うっ、ぐっ、ああああああああ!!」
身体から漏れ出す黒紫の魔力が視界に入って来るけれど、私はそれどころじゃない。内側から溢れ出しそうになる暴力的な魔力。そして、凶暴な意思を確かに感じていた。
リオがその中で必死になって抵抗してくれているのも分かったけれど、やがてそれは身体の外へとはじき出されてしまった。
同時に腕に付けていたSlot Absorberから獅子のメモリーが勢いよくはじき出されてしまう。
「ちっ、トカゲめ。小娘を器に選んだか。まぁ良い、代わりにもならんが貰っていくぞ、このメモリー」
それは不運なことにショルシエのいる方へと飛んでいき、朱く染まり、獅子の紋様が浮かんでいるメモリーをショルシエは手に取ってもて遊ぶ。
「待て!!」
「逃がさんっ!!」
「待てと言われて待つバカがいるか」
最後に捨て台詞を吐いて、ショルシエはその場から姿を消してしまった。
ご丁寧にバハムートの死体まで回収している。相変わらず、逃げ足だけは早い。
「リ、オ……っ!!」
奪われてしまった『獅子』のメモリーには当たり前だけどリオが入っている。
大事な家族で相棒を奪われて、黙っているわけにはいかないけど、それ以上に身体を蝕む魔力が私の思考と身体の自由を奪っていた。
「ルビー、しっかりしろ!!おい、誰か診てやってくれ!!」
「姫様、姫様。お気を確かに。パッシオーネに魔力を少し分けていただけますか?」
番長は私に、カレジはアリウムにそれぞれ駆け寄っているけど私の意識はここまで。
次に目が覚めたのは3日後。以前にもお世話になったあの病院の天井を見るところからだった。




