黒紫の魔力
振り下ろされた巨剣は太刀筋をなぞる様にしてあらゆるものを薙ぎ払い両断した。何mそれが続いているのかもわからないほど遠くまで焼き斬ったそれは、バハムートの首すら同様に斬り落としていた。
「どんなもんよ」
「小娘、貴様ぁッ!!」
どんな生き物も首が落ちれば死ぬ。それはバハムートも同様のようで、首が落ちた身体はスローモーションのようにゆっくりと地面に倒れ、ピクリとも動かなくなる。
そばにいたショルシエが鬼の形相をしているし、バハムートは生き物として確実に死んだみたいね。
ざまぁ見なさい。そうやっていつもいつもこっちも格下だって見くびっているから肝心なところで足元を掬われるのよ。
なんて強がっては見るけど、状況がヤバい事には変わらないわね。殆ど壊滅に近いこっちに対して、残念だけどショルシエはピンピンしてる。一緒に叩き斬るつもりだったんだけどね。
寸前で避けられた。ホント、逃げ足だけは早いわよね。
「どいつもこいつも猿の分際でこの私の邪魔を……!!」
「そうやって粋がっていつも失敗してるじゃない。アンタが猿以下の学習能力じゃないの?」
「貴様ぁ、肉片一つ残さずすり潰してくれる!!」
怒りの感情を隠さないショルシエをつい煽ってしまったけど、かく言う私も『星を斬る剣』で魔力がすっからかんだ。変身状態を維持するのがやっとなレベルで、疲労感から指の一本も動かせる気がしない。
さて、どうするかな……。
「よくやったわ。本当、よくやった」
「ここからはお任せください」
冷や汗をかきながら、脅威が一つ減っただけの変わらない状況の打破を考えていると、ぽんっと頭に手を置かれ、二つの優しい声音が聞こえて来た。
そして、私達の前に大きな鎌を担いだ女性と、剣を加えた大きな獣が現れる。
「私の教え子たちに随分好き勝手してくれたようね」
「人の心身を弄ぶその腐った性根、変わらぬようだなショルシエ。お礼参りと言うやつだ、覚悟してもらおう」
『影鎌の魔法少女 リエンダオ』、『勇者』カレジ。あまりにも頼もしい増援が、私達を庇うようにしてショルシエの前に立ちふさがる。
ズンズンと揺れる地面の向こうからはノンちゃんがその巨体を前進させ、こちらに向かっているのが見えた。
文字通り、全員集合。しかも私達の中でも飛び切りの実力者が揃っての登場はまさに形勢逆転。苦虫をすり潰したような表情のショルシエがより怒りの感情を深めていく。
「次から次へと……っ!!」
「貴様の敵はそれこそごまんといるのだろう?それだけの事をして来た自分を悔やむんだな」
「そう言うことだ」
そうやって再び戦いの雰囲気が高まる中、次々と私達の背後に悪路をモノともせずしない車両が到着する。
今度は何だ、と目を剥いているとものすごい勢いで魔法少女協会に所属している医療班のチームが飛び降りて来てフェイツェイやアメティア、クルボレレを中心に一斉に取り囲む。
普段なら戦闘が終わって、安全が確認されてから来るのが医療班だけど、それが今まさに戦いが始まろうとしている中でこうしてやって来て大丈夫なのだろうか。
「なんて酷い……っ!!止血しながら搬送します!!輸血準備!!」
「出来てます!!」
「フェイツェイさんには4人がかりで治療を始めます!!アメティアさんとクルボレレさんの容体は?!」
「骨折や打撲が中心です!!こちらも搬送かけます!!」
以前見たもたもたした雰囲気は一つもなく、彼女達は機敏にそして冷静に状況を判断して素早く動いている。それが適切な判断かは私にはわからないけど、それでも劇的な改善だと思う。
あっという間に重傷者であるフェイツェイ達を中心に車に担ぎ込み、3台が大急ぎでこの場を離れて行った。
その間にもショルシエと番長、カレジのにらみ合いは続いている。ショルシエ自身も消耗をしていないわけでもないだろうし、ここに来ての増援自体が想定外のハズ。
私達の中でも飛び切り強力な近接ファイターである二人は、ショルシエにとっては戦いたくない相手なのかも。
私やアリウムの周りにも、残っていた医療班が取り巻く。私達は戦いの邪魔だ。ここは素直に二人に任せて、この場を離れようと判断した時だった。
バハムートから3枚のメモリーが飛び出して来たのは。




