星を斬る剣
両手に剣を握りしめ、膝立ちのままで私は見ているだけだった。頼もしい仲間たちが目の前で倒れて行く。大切な友達が理不尽に傷つけられていく。その様子を、ただただ見ているだけ。
周囲の状況も酷いものだ。瓦礫の山と焼け焦げた地面。魔法の流れ弾で大きくえぐれた地面は廃墟どころか更地でしかない。
その中で、私達は絶望的な状況に身を置いていた。
「ともかく、感謝しているよ、アリウムフルール。お前が両親を殺してくれたおかげで何もかもが上手く行っている。だから、最後に教えてくれよ」
アリウムが両親を殺した?馬鹿げた話だと思う。そんなの、親として当然の選択の一つを取っただけじゃない。
私は親じゃないし、本当にそんな風に出来るのかなんて正直分からない。でも、もし友達やパパとママが死んじゃうかも知れなくて、それを私が身を削ることでどうにか出来ると言われたら、きっと私はそうすると思う。
理屈じゃない。大切な人ほど、何かを投げ出してでも助けたいと思えるのはきっと人間として真っ当なもので、ましてや親が子を守る為に身を削ることは当然とまでは行かないけど、自然とそういう風になっていくのだと思う。
アリウムは人一倍優しいから、きっと両親も人一倍優しい人たちだったはずだ。優しい人ほど、他人の為に頑張る。優し過ぎるのも、考え物だけど。
でもそれを赤の他人がお前が殺したんだと指を指して言うのは絶対間違ってる。他人が決死の思いでした選択を、誰かのためにと願ってしたことをバカにして嘲笑して、しかもその原因は自分にあるのに、その責任を擦り付けてなじって来るなんてふざけてる。
「やめてぇっ!!」
そして、また仲間が一人倒れる。フェイツェイもまた、アリウムを守る為に自分を盾にして、あのふざけた妖精の凶刃に倒れた。
周囲の仲間たちはもうボロボロだ。パッシオとフェイツェイは重傷だし、アズールだって私を庇ってケガをしている。
そのアズールが必死の形相で瓦礫の下から引き揚げようとしているアメティアとクルボレレの二人も相応の怪我を負っているだろう。
ノワールとグレースアは遠方にいるから怪我自体は無いはずだけど、元々ノワールは最年少っていうのもあってメンタルがそこまで強いタイプじゃない。姉二人が傷付けられているこの最悪の状況に、既に戦闘に参加できないくらいの状態になっている可能性はある。
グレースアに関しては、フェイツェイと合体的なものをして戦っていた。肉体はノワールの近くにいるはずだけど、合体中は精神の方がフェイツェイと一緒にいるらしい。
フェイツェイが倒れた今、彼女がどうなっているのかは私の想像力では判断しきれない。
アリウムに至っては、言うまでもない。既に戦えるような精神状態じゃないし、完全に戦意を喪失している状態。
いつもなら、傷付いたフェイツェイに飛びついて治療を始めるはずなのに、それすら出来ていない辺り、相当にまいっている。
「さぁ、お前のせいでまた1人死ぬな?副団長殿もそう長くは保つまい。だから取引だ。ここにいる全員の命、救ってやっても構わない」
仲間達はほぼ全員が戦闘不能と言って良かった。その最中に諸悪の根源であるショルシエがアリウムに取引とやらを持ち掛けていた。
そんな取引、絶対に取引ですらない。ショルシエが目的のモノを手に入れた瞬間、私達全員を殺して、街を滅茶苦茶にするくらいの事は私にだって想像がつく。
それでも、私の身体は鉛のように動かない。何かに恐れているのだろうか、もうすでにどこかで諦めてしまっているのか。
いつもは軽快に動くはずの身体は地面に縫い付けられたように動かない。
「――誰か、助けて」
そんな時、アリウムが小さく呟いたその一言だけが、いやに大きく聞こえた。
誰でも良いから、助けて欲しい。普段のアリウムなら絶対に吐かない弱音。彼女だったら、全部まとめて守ってやるくらい言うはずなのに、そのアリウムが助けてと誰にでもなく願っている。
「なに、やってんのよ。私は……っ!!」
そこでようやく目が覚めた。何を呆然と突っ立っている。なんで何もせずに諦めている。
ここで諦めたら全部終わる。何もかも終わるかも知れないんだ。それを指を咥えてみているだけ?誰かが傷付いてるのをただただた見ているだけ?
ふざけるな。
何のために魔法少女になった。何のために強くなった。誰かを守るためじゃないのか?自分が信じる正しいことを、自分の力で突き進むためじゃなかったの?
そうだ、そうだ。おばあちゃんが言ってた。親友や仲間の一人、身体を張って守れなきゃって。だから親友で仲間なんだって。
そのくらいの気持ちでいれば、絶対に負けないって。
実際にそれを目の前で見て来た。そうじゃないか、私が憧れたアリウムフルールって名前の魔法少女は身体を張って仲間と友達を守って、それで絶対に負けなかった!!
「……ちっ、本当に何も知らないのか。ならいい。貴様にも用はない。焼き払え、バハムート。次こそこの街と魔法少女ごと消し炭にしろ」
ショルシエの指示で、バハムートがまたブレスを放つために魔力を高めていく。
普通に考えて、あんな馬鹿げた炎に勝てるはずない。誰もが裸足で逃げ出すレベルなのは間違いない。
でも諦めるな、逃げるな、立ち向かえ。私なら出来る。絶対出来る。私の全部を出し切れ!!
【Memory Boost!!】
「ん?なんだ小娘、まだいたのか。今更何をしようとしても遅いぞ。貴様らは全員消し炭だ」
両手に持つ剣を合わせる。そう、私が今必要なのはこの不条理と理不尽をぶった斬る最強の剣。バハムートだって焼き斬るするような最高の炎。
イケる、やれる。やって見せる。ここで私がやらなきゃ、誰がやるんだ!!
「ガオオォォォォォッ!!」
「『固有魔法』ッ!!」
リオが吠え、両手にある二振りの剣が炎に包まれて一本の巨大な剣になる。その朱色の焔はみるみる内に背丈を超え、火柱のように噴き上がる。
「なっ?!」
「いっけえええええええええええええっ!!」
がむしゃらに振り上げ、太陽にも届きそうなその巨剣を。
「『星を斬る剣』ォッ!!!!」
私はただ、力の限り振り下ろした。




