白日
次こそ、言葉も出なくなった。お父さんが、死んでる?嘘だ、そんなことあるはずない。
だってあの人はきっと何処かで誰かを救ってる。そんな人だそういう人なんだ。
死ぬわけが無い。死ぬような人じゃない。そんな簡単に、死んでいい人じゃない。
「嘘だと思うか?なら、何故お前の手に渡る前に『Mother』のメモリーは私達の手にあった?何故、私が君の父親の名前を知っていると思う?……あぁ、安心してくれ。君の本名と素顔は知らない。興味が無かったからな」
「お前が、手を掛けたのか……!!」
「話を聞かない奴らだ。言っただろう?私が手を汚したわけじゃない。生死は問わんと言ったら死体で来ただけだ。ま、おかげで色々出来た。骨の髄まで実験に使わせてもらったよ」
私の肩を抱くフェイツェイの力がギュッと強くなる。相当に怒っているのだと思う。私の後ろに立っているから、顔色までは伺えないし、今の私に他人の顔色をうかがう余裕はなかった。
お母さんも死んじゃった。お父さんも死んじゃった。私のせいで、二人も……。
「っ!!アリウムしっかりしろ!!お前のせいなんかじゃ絶対にない!!ショルシエの話を鵜呑みにするな、お前の両親はそんなことを思う人じゃないだろう!!」
「本当にそうか?アリウムフルール。お前が生まれさえしなければ、少なくとも二人は今でも存命だっただろうよ。本来生まれるはずのない、人間と妖精のハーフ。要らぬ奇跡が起きた結果、子は何も知らずに生き永らえ、親二人はあっけなく死んだ。これを生まれながらの罪と呼ばずに何と呼ぶ?」
「黙れっ!!それ以上適当な事を言ってみろ、その首斬り飛ばすぞっ!!」
フェイツェイの怒号と、ショルシエの発言を近くに居ながら、まるで遠くから呆然と聞いているかのような感覚で頭の中に入って来る。
要らない奇跡で生まれた子供。生まれた瞬間からの親殺し。暗くて、どろどろした感情ばかりが心の奥底にヘドロのように溜まっていく。
それじゃいけないのは分かっている。それが真実なんだとしても、フェイツェイの言う通りそんなことは無いのだと思う。
でも、どうしても思ってしまう。私が、生まれなかったら。私が生きていなければ。お父さんもお母さんは今でも幸せに暮らしてたのかなって。私が、それを滅茶苦茶にしてしまったのかなって。
どうしても、何処かで思えてならない。真偽は不明。それでも確かに、私の心の深くまで大きなトゲが刺さったのは間違いなかった。
「お前の父には感謝しているよ。何せ我々の研究と計画が上手くいっているは、彼の残した『Mother』のメモリーのおかげだ。アレが我々の研究に多大な影響を与え、Slot Absorberを作り出す礎になった」
「メモリーもSlot Absorberも、お前達が作ったものではないのか?」
「Slot Absorberは私が開発したが、メモリーは別さ。アレは本来ならただの魂の保管媒体に過ぎん。私はそこから魔力を引き出す術を作り出した」
驚いた事にメモリーとSlot Absorberは開発した人物もその経緯も全くの別だったらしい。
しかも、メモリーの開発者はお父さんだと言うが。何故、お父さんはメモリーを作り上げたのか。
得た情報量が多過ぎて、なおかつ私自身が完全に疲弊し切っているせいで上手く頭が回らない。
何故?どうして?と疑問こそは浮かぶけれど、それら全てが自分が両親を殺したという暗く重い感情によって押し潰されて行く。
「ともかく、感謝しているよ、アリウムフルール。お前が両親を殺してくれたおかげで何もかもが上手く行っている。だから、最後に教えてくれよ」
最後に教えてくれ。一体何を伝えろというのだろうか。
私は何も知らされず、何も知らないまま生きて来た。命を守りたいと言いながら、その命を守るどころか、救うどころか。
両親の命を消費した結果、今ここに生きているのだとするのなら。
私がこれまで積み上げて来たものはあまりにも空虚なモノでしかない。
最も守りたかったものを、守らなきゃならなかったものを、私は……。
ただ呆然とする私に向かって歩みを進めるショルシエ。それを見たフェイツェイは、私を丁寧に地面に座らせ、庇うように私の前に立つ。
「それ以上近付くなら、斬る」
「邪魔だ。貴様に用はない」
ピリピリとした空気が辺りを包む。余裕のショルシエと、殺気立つフェイツェイが睨み合う中、ショルシエが一歩を踏み出し、フェイツェイが攻撃姿勢に入った。
「猿もここまで来ると哀れに思えるな。同じ事を副団長殿がやられていただろ?」
「……か、ふっ」
それよりも一歩早く、ショルシエの魔法の槍がフェイツェイの身体を貫いていた。
パッシオの身体を貫いたそれと同じだ。私達と喋っている間に仕込んでいたのだと思う。
「フェイ、ツェイ……」
「大丈夫、だっ。絶対、守ってやる」
完全に身体を貫通していて、ぽたぽたと血が垂れて来ている。
大丈夫な訳ない。ギリギリ即死を免れただけだ。
痛々しい目の前の光景に、完全に思考が止まる。私のせいだ。私を庇ったせいで……。
「『固有魔法』」
「やめて」
「『翡翠』っ!!」
「やめてぇっ!!」
身体を槍に貫かれたまま、固有魔法を放ったフェイツェイの身体が吹き飛ばされて、私の真横まで転がって来る。
身体を貫かれた傷に、肩から胸元に掛けてまで付けられた切り傷はどう考えても致命的。
どばどばと流れる血の中に、ポッキリと刀身の中程から折れたフェイツェイの魔法具『翠嵐』が転がっていた。
「さぁ、お前のせいでまた1人死ぬな?副団長殿もそう長くは保つまい。だから取引だ。ここにいる全員の命、救ってやっても構わない」
「……っ!!」
「ただし、渡して貰うぞ。3つある『神具』の一つ。森羅万象、概念を含めたあらゆるモノを弾き返す最強の盾。『摂理を弾く倫理の盾』を」
もう、なんだって良い。私の全部を持って行って良いから。
ーー誰か助けて。




