白日
頭の中が真っ白になって、身体から力が抜けて来る。
ショルシエの言っていることを信じるつもりは無い。信じるつもりは無いけれど、告げられた言葉は確実に私の心を抉っていく。
お母さんが死んだのは、私が生まれたせい。
その言葉と認識が、私の精神に重くのしかかって来る。もし、それが本当であるなら。本当に、私が生きるためにお母さんが自分の身を削ったのなら。
「お父さんが、何も教えてくれなかったのも……」
お父さんがお母さんの死に関して頑なに何も伝えようとしなかったのは、私がお母さんを死なせてしまったから?
だとするなら、私はなんて、酷いことを。
「聞くなアリウム!!全部嘘っぱちだ!!お前が半分妖精だったとしても、それはお前のせいじゃない!!」
「嘘じゃないさ。現に女王プリムラは死んだ。その事は私も確認済みなんだよ。知っているだろう?お前たちも。『Mother(母)』のメモリーを」
「確かそれは……」
シャドウが最初に使って、私が『イキシア』に取り込んだメモリーだ。それが、お母さんの魔力が入ったメモリー?
でも、だとしたらどうしてショルシエ達が【ノーブル】が母のメモリーを持っている?お母さんが死んだのは15年以上前の話だ。その時、世界には魔獣どころか魔力すらない。
どうやってお母さんが人間界に来たのかも疑問ではあるけれど、同時に当時は【ノーブル】の母体となった宗教団体すら存在しないはずだ。
それなのに、どうして母の魔力が篭っているメモリーが存在したの?
時系列がぐちゃぐちゃだ。何が、一体どうなっているの。
「くくく、順を追って説明してやろうじゃないか。まず、女王プリムラがどうして人間界にいたかだ。なぁに、答えは簡単だ。私が原因だよ。この私が、女王がミルディース王国内の領地視察に向かっている際中に女王を襲撃したのさ。とあるものが欲しくてな、それを奪うために女王とそのお付きどもと視察団の中に転がり込んだんだが、間抜けな事に失敗してね。まんまと逃げられたのさ」
「何処から何処までもアンタが原因って事じゃない!!」
「その通り。私は私の目的の為ならなんだって使う。他人の事など知ったことか」
嬉々として語りだしその原因も自分であると自白するショルシエ。それにルビーが噛み付くが、当の本人はゴミだと言わんばかりに吐き捨てる。
そういう相手だとは分かっているけれど、本当にロクでもないヤツだ。
自分の欲の為に他人を平気で利用し、踏みにじる。そう言う奴に限ってよく頭が回るから曲者なのだ。
「ともかくだ。女王は無事私の襲撃から逃げおおせた。いや、逃がされたが正しいな。お付きにいた腕利きの魔法使いに転移魔法で飛ばされたのさ。ありったけの魔力を込められて、ただただ安全な場所にとな。まぁ、魔力が過剰過ぎて、転移魔法は暴走したが」
「その飛ばされた先が、人間界だというのか」
「そうだ。確かに妖精界よりは安全だが、魔力なんて一つもない妖精にとっては死の世界みたいな人間界にな。そこで何があったのかまでは知らん。興味も無いからな。だが、それをやられた時は困ったものだったよ。何せ最初の内はまさか異世界に飛ばされているだなんて思ってもいなかったし、私の欲していた物まで一緒に飛ばされていたんだからな」
しばらく頭を抱えたものだ、とショルシエは笑う。
世界を超えてまで転移魔法で飛ばされるなんて、そんなことがあるのだろうか。暴走したとはいえ、世界を超える。奇跡みたいな話だけど、事実としてお母さんは26年以上前にこの人間界にやって来ているのは事実ということになる。
ここに、その証拠がいるのだから。
「だから世界の壁を壊させた。ミルディース王国の魔法使いどもを唆してな。面白かったぞ、世界を跨いだその先に居なくなった女王がいると伝え、その壁の壊し方を伝えた時の連中のはしゃぎようと来たら。本当に、笑いを堪えるのが大変だった」
「なっ?!」
「アンタが――っ!!」
ショルシエが、人間界と妖精界を隔てる壁を壊した張本人。それを聞いて、その場で聞いていた私達は驚愕や怒りの感情をあらわにする。
お前が、お前のせいだというのか。一体、そのせいでどれだけの命が失われたと思っているんだ。
「忠誠心を利用したのか……っ!!このゲスめ!!」
「私は事実と方法を伝えただけだ。やったのは連中だよ。ま、余波に巻き込まれて全員死んだがな。おかげで、私はこちらに来れた。ようやく、探し物の再開という訳だ」
女王がいなくなったということは国は相当荒れたことだろう。それを、女王の居場所が分かったと言われ、その方法まで用意されたのであるなら、忠誠心が高い人ほど率先してことを進めようとするだろう。
きっと、その結果命が脅かされることなど教えもしなかったはずだ。ショルシエはただ伝え、ただ実行されるのを遠くから笑みを浮かべてみていたに違いない。
「なんて、なんて酷いことを……っ!!」
「酷いこと?お前に言われる義理は無いなアリウムフルール。私は一人も手を掛けていない。二人も死の運命に追いやったお前の方が、私からすればよっぽど酷い」
二人、と言われて私は再び表情をこわばらせることになる。
一人はお母さん。私を生き永らえさせるために、私に生きるための魔力すら失った。
だとするならもう一人は?もう一人、いるとするのなら。
そこで、私は【ノーブル】がお母さんの魔力が込められていたという『Mother』のメモリーの存在を改めて思い出す。
何故、【ノーブル】がショルシエがそのメモリーを持っていたのか。
そのメモリーを、『どうやって手に入れた』。
「お前の父、小野 真司だったか?ソイツも既に死んでいるよ。大方、お前の存在を私達から秘匿するためだろう。ふはははっ!!つまり、お前は生まれた時点で両親殺しというわけだ!!なぁ、アリウムフルール。――貴様のせいで、死んでるんだよ」




