白日
ほんの一瞬だけでも向けていた殺意を緩めた私を見て、すかさずショルシエは口を開く。
「まず、私が現時点で言えるお前自身の身の上についての真実だ。簡単に言えばアリウムフルール。君は純粋な人間じゃあない」
「な、何を、そんな馬鹿な事が……!!」
「ホントにそうか?これはあくまで私の憶測だが、君自身や君の周囲に何かしら説明のつかない事象が起こっているんじゃないか?例えばそうだな、君の人間とはとても思えない、無尽蔵なその魔力と魔法操作能力なんかもそうだ」
そう言われて、私も含めて話を聞いていた魔法少女全員が口を結び、何も言えなくなる。
心当たりがあり過ぎた。
私が本当は26歳で男の人だったという体の変化、パッシオ以外の私も含めた周囲の人間がそうであったという記憶と記録の変移と消失。『繋がりの力』という他の魔法少女には無い特別な力。
ショルシエの言う魔力に関しても日に日にその量が増して行っているのを感じていた。
人間であるはずの私が、魔力総量では本来圧倒的な差があるはずの妖精であるパッシオとカレジの二人の魔力を十分に補充しても、私はケロッとしていて、底なしの魔力量だなと思った事はあった。
「私も常々不思議に思っていたんだ。本来、Slot Absorberを介することでようやく引き出せるメモリーの魔力。それを当たり前のように自前で引き出す技。私はてっきり君自身の魔法によってそれらが引き出されているのかと思っていたのだが、さっきの君の魔法の城を見て確信したよ」
メモリーの魔力、それどころか魔法や技術まで引き出すのが私の持っている『繋がりの力』という特殊な能力。
魔法ではない、むしろそれ以上に異様で特殊なその能力。それらの正体を、一体何を由来にしているのかを、ショルシエは知っているということなのだろうか。
しかもそれも『幾千年紡ぎ紡いだ王家の城』で確信したという。
何故?あれは私の『固有魔法』であって。何かを模したわけでもない。ただ、私の意識の中にある魔法のイメージを具体化しただけに過ぎない。それが何故、確信に至る要因となるのか。
困惑を深める私を見て、ショルシエは笑みをただただ深め、少し溜めてから再び口を開いた。
「『幾千年紡ぎ紡いだ王家の城』、だったか。見事なものだ、あそこまで精巧に『再現』するとはな。君はあの城を見たことが無いはずだが、血筋というものは時に面白いものを遺す」
「……どういう、こと」
「ブローディア城。それはかつての私の職場でね、そこで死にかけている副団長殿も務めていた場所さ」
「それと、私の『固有魔法』の何が関係あるのよ」
わざと話を長くして煽っているのが手に取る様に分かる。こちらの心理を揺さぶる気だ。
そうは行くかと強く気を持ちながら、パッシオの様子を気に掛ける。
意識を失っているようでピクリとも動いていない。今すぐにでも駆け付けたいが、ショルシエがそれを許すとも思わない。
焦りと緊張。そして、ショルシエの話す私の事を知っておきたいとどこかで思っている私自身が、身体を地面に縫い付けたように動かなくさせている。
他の皆も似たような状態であるようだ。
「言っただろう?精巧に再現されていると。君の魔法はもまさしくブローディア城そのものだ。魔法とは使用者のイメージの他にも幾つか形作る要因がある。例えば、血筋だ。一部の妖精ではその家に伝わる特別な魔法があるし、親兄弟であれば属性や形や性能なども自然と似る。そして、君が持つメモリーから魔力を引き出すその能力に並の妖精など比較にもならない魔力量。それらを見て、ピンと来たのさ」
ただただショルシエは愉快そうに語る。騙っているのか、語っているのかは分からない。
ただ、適当な嘘を吹聴しているようにも思えなかった。それ自体は道理が通っている。
道理が、通ってしまっている。
「君はただの魔法少女じゃない。ましてやただの人間でもない。君の母親はプリムラ。プリムラ・イニーツィア・レイナ・ミルディース」
「どうして、母の名前を……っ?!」
「知っているからさ。直接会ったこともある。なにせ妖精界最古の王国だった王家の末裔だ。君はその娘。正真正銘のお姫様、というわけだ」
母が、妖精……?何をバカな。父も母も間違いなく人間のハズだ。
仮に父が人間で、母が妖精であったとして妖精と人間で子供が残せるわけが無い。住んでいる世界が文字通り違うのだ。子供を遺すための仕組みはおろか、生き物としての在り方から根本から違うはずだ。
もしくは父も母も妖精であるなら、私だって妖精のはず。私は間違いなく人間だ。これは疑いようがない事実。
嘘っぱちも良いところだ。一体、何を言っているんだと自分に言い聞かせる。それに反して、私の心臓は痛いくらいに跳ね上がっている。
「中々信じてはもらえなさそうだな。ならばもう一つ、私が導き出した真実を教えてやろう。アリウムフルール。君が何も知らないのは、母親が既に存命では無いからだ。なに、答えなくて良い。そうであるのは明白だからな」
「勝手なことを!!」
「君は半分が人間。もう半分が妖精だ。人間には血と肉が、妖精には魔力が必要なのは君も知っての通りだろう?血と肉は人間界なら容易く手に入る。しかし、魔力ならどうだ?幾ら半分言えども、妖精は妖精。身体を維持し、ましてや成長させ、当たり前のように生を全うするには相当な量の魔力が必要だ。しかも、人間界では補充が難しいと来た。希薄な魔力しかない人間界では、妖精はマトモに生きていけない」
聞くな。耳を傾けるな。気付くな、気付いてはいけない。
頭の中で必死に反芻させて、ショルシエの大仰な身振り手振りを含めた言葉を何とか聞き流そうとする。
だって、それは、そういうことなら、つまり私は――!!
「だから君の母親である女王陛下は、御身の魔力を全て愛おしい我が子である君に注ぎ込んだのさ。自分の命をかえりみることなく!!なんて美しく尊い話だろうなぁッ!!えぇ?!アリウムフルール!!」
「嘘だ……っ嘘だ嘘だ嘘だっ!!!!!」
「つまりお前は、生まれて来たその時から、母親を殺したのさっ!!ふははははははははっ!!!!」
大好きなお母さんが死んじゃったのが、私のせいだなんて、信じたくなかった。




