白日
何が起こったのか分からなかった。突然地面が眩く光ったと思った次の瞬間には光の奔流に飲み込まれ、パッシオに抱きかかえられた私は瓦礫を障壁で押し退けて、何とか立ち上がる。
周囲を見渡すと、私達が戦っていた範囲を狙って、何か魔法が発動したのだと思う。足元に転がっていたはずの倉庫の残骸が、更に隆起した地面と混ざり合い周囲の様子はガラリと変わっていた。
「真白、無事かい?」
「パッシオ?!怪我はない?大丈夫?」
「僕は君の心配をしているんだけど」
「パッシオがかばってくれたから大丈夫。怪我が無いか見せて」
大丈夫だってと言うパッシオを無視して。私はケガが無いかをチェックする。案の定、あちらこちらに傷があり魔力が漏れ出している。
無茶ばっかりするんだから。心配するこっちの身にもなって欲しいものだ。
「くっ……、全員無事か?」
「アズール、重いんだけど」
「庇ってやったんだから我が儘いうなっつーの。痛って」
パッシオの傷を確認し、簡単に治療をしていると瓦礫の中からフェイツェイ、アズール、ルビーとそれぞれ出て来る。
みんな傷だらけだけど致命傷になるようなものは無さそうだ。良かった。
それにしても一体何があったのか。周囲を見渡すとバハムートの傍らに立つ、ショルシエの姿が見える。
でも、アメティアやクルボレレの姿が見当たらない。まさか、瓦礫の中にいるのだろうか。マズイ、すぐに助け出さないと……!!
「女、狐ぇっ!!」
「まだ抵抗するのか。死んでもS級、か」
怪我をしている中悪いけれど、アズールに目配せをして瓦礫の中にいるかも知れない二人を探してもらう。こういう時の彼女の第六感は非常に頼もしいものがある。
【アズールお姉ちゃん、もっと右だよ!!】
「サンキュー!!」
それに、ノワールからの通信も入った。大よその場所は見当がついたのであればそこまで時間はかからないはず。
ただ、目の前にいるショルシエとバハムートという強敵を前に安易に背を向けて良いわけもない。
私が改めて視線を向けた先にいるショルシエとバハムートであるが、何やら険悪なムードで、不自然に身体を揺らすバハムートと不吉に笑みを深めるショルシエ。
ロクでもない事態が起きているのは今まで経験上分かり切っている。
「戦いの邪魔をするとは、貴様ァッ!!」
「悪いなトカゲ。一度死んで私の手を借りた時点で、お前は私の傀儡なんだよ」
激昂するバハムートに手をかざし冷笑するショルシエ。張り付けたような笑みが相変わらず気味悪く、隣で怒りに震えるバハムートとの対比と温度差に寒気を覚えそうなくらいだ。
「所詮は、性根の腐り切った怜悧狡猾なクズか……!!」
「随分と酷い言い草だな。まぁ良いさ。所詮、死人に口なしさ。良い夢を見ただろう?」
「ぐっ?!がっ!?」
ショルシエが手をかざしているだけだが、突如としてバハムートが苦しみ始める。口の端から泡を吹き、苦しみもがいているのが遠目に見てもよく分かる。
一体、何をしようとしているのか、今までの【ノーブル】の所業から何となく予想が付き始めた。
操ろうというのだ、バハムートを。人類最大の敵の一体であり、地球上の空という空を我が物顔で占有した竜の王を、意のままに操れる傀儡にしようと。
魔獣を操り、魔法少女を操り、妖精も操ろうとした【ノーブル】はS級魔獣すらもその手に落とそうとしているのである。
「ノワール!!」
【分かった!!】
意図を理解した時点で、ノワールに呼びかけすぐにそれに応じた狙撃が行われる。しかし、ショルシエはそれを意にも介さない様子で避ける。
そうして、伸ばされた手はバハムートの喉を掴み、そこから全身にあの刻印がバハムートの全身に浮かび上がった。
「ぐっ、ガっ、ギャアアオオォォォォォッ!!」
「ふはははははははははは!!造作もない!!所詮は下等生物から成りあがったトカゲ、私の魔力に敵うはずもあるまい」
流暢な口調で喋っていたバハムートの姿はそこにはなく、瞳からも口から発さられる咆哮からも知性や理性の類は感じられない。
完全に、ショルシエの制御下落ちてしまったのだろう。敵とは言え、なんて惨い仕打ちなんだと怒りが湧き上がる。
命を、心を一体何だと思っているのか。
「待たせたな、魔法少女」
「待たせたなですって……!!そんなものをショーか何かだと思っているの?!」
「勘違いするな。コイツの事など今からすることの前座にもならん」
「……っ!!」
あまりの良い草に握り込んだ拳が震える。この女は、この妖精は、何処まで生命を冒涜するんだ。
どこまで自分勝手で傲慢なんだ。何度となく思っては来たけれど、やっぱり到底許せる相手ではない。
「ショーはこれからだ。今から、貴様らの一番大切な物とやらを消し炭にしてやる。貴様ら頼みの副団長も、そこまで消耗してれば防ぎきれまい」
「――まさかっ?!」
背筋が凍る。ショルシエが今やろうとしていることに。全員の表情が青くなる。
この女は最初からこれを狙っていたんだ。退くも進も出来ない状況を作り上げ、全員が消耗して抵抗する力を削ぎ、そうした上で私達が守っているモノを私達がいる目の前で壊すつもりでいる。
「さぁ、国を焼いたその焔。存分に示すがいい!!」
指示を受け、魔力を高めていくバハムート。先ほどのドラゴンブレスとは数段違う魔力の濃度は間違いなく街一つを容易く焼き尽くす劫火だろう。
そんなことさせない。させて堪るか。もう二度と、あの時と同じ光景を見たくなんてない。
「『固有魔法』ァッ!!」
硝煙と人が焼け焦げた匂いがする中、子供達が、患者が、助けてと泣き叫びながら逃げまどうあの光景を二度と見ないために、この力を手に入れたんだっ!!
そうして、私は自らが持つ最硬の魔法を脳裏に浮かべる。白亜の壁と紫の屋根の城。風光明媚な城下街が栄える情景を。
「『幾千年紡ぎ紡いだ王家の城』!!」
国を焼いた黒紫の焔と、国を守るための障壁の城が真正面からぶつかり合った。




