侵攻
『エンジンギア』。クルボレレさんが協会から支給された専用の強化アイテム。その試作機の効果によっていつも以上の超スピードを得て、ショルシエを相手に近接戦闘を果敢に続ける。
「だららららららっ!!」
「ぐっ?!」
ショルシエに猛攻を仕掛ける彼女に与えられた時間は30秒。それ以上を使うのは身体が持たないのでリミッターとして設けられているけれど、この30秒間の強化は圧倒的とまで言える。
対ショルシエに有利であろうと推測されているフェイツェイさんですら、グレースアさんと組んでようやく戦える相手。
フェイツェイさん一人で戦っているようで、実際は2人で戦っていて、しかもフェイツェイさんはAクラス魔法少女の中でも実力が高い部類。
その人が助力を借りたうえで、相性的に偶然有利な相手に何とか対応出来る。
ショルシエという妖精は確かに戦闘のプロではないので、制御を取りやすいけれど、基本的に魔法少女が真っ向から戦っても一方的に負ける相手です。
それをどうにか出来るフェイツェイさんとグレースアさんの二人が凄いのであって、ショルシエが弱いわけではありません。
そのショルシエに、魔道具すら発現させていないCランク魔法少女であるクルボレレさんが一人で一方的な攻勢を仕掛けられる。
これが時間制限ありとは言え、実現できているのがどれだけ凄まじいことであり、そしてクルボレレさんの身体に負担が掛かるのかは、想像を絶する部分があると思っています。
「はぁはぁっ……、アメティアちゃん、ノワールちゃん、後は頼むっす!!」
30秒きっかりに私の隣に戻って来たクルボレレさんは今まで見たことのないくらいの疲労をその顔色に覗かせています。
汗も息も凄い量です。30秒というリミットですら、ギリギリのラインの設定なのでしょう。
「この、小娘共がっ!!」
「ノワールちゃんお願いします!!」
【任せて。直撃するやつだけ撃ち落とすね】
私の方はもう少し準備が必要です。時間を稼いでもらうにはノワールちゃんに頼むしかない。
クルボレレさんにボコボコに殴られて、魔力を身体のそこかしこから散らしているショルシエが力任せに放って来た魔法。その魔法の直撃するようなものだけをノワールちゃんに撃ち落としてもらいます。
元々連射には向いていないノワールちゃんの魔法ですから、最低限の規模です。
ですが、私が魔法を練り上げるその時間が用意してもらえれば問題ありません。
最年少ではあるノワールちゃんですけど、仕事人としての気質は私達の中でも1番ですから。
次々とこちらに迫る魔法を寸分違わずに撃ち落とす技術には惚れ惚れします。
これが私のように多数の魔法を操っているわけではなく、1発1発間違いなく狙いを定めて狙撃しているのですから神業とも思えます。
【もうちょっと?】
「もうちょっとです!!」
とは言え、長くは持たないのもわかっています。そんな無茶は短時間が限界。
焦りを含むノワールちゃんの声が聞こえて来ます。
もう少し、もう少しです……!!
練り上げる魔力が半端ではショルシエに撃ち負けます。私の魔力のありったけをぶつける以外、あの妖精に魔法で勝てる見込みは無い。
障壁は破った、ダメージも与えた。これが、ラストチャンス!!
「いけますっ!!」
そして、その瞬間が来る。幾つもの魔法に可能な限りの魔力を注ぎ込んだ、私が今出来る最大火力を放てる時が。
巨大な魔法陣が私がショルシエに向けている魔法具『エントワーフ』の先端を中心に展開される。
続くように魔法の弾丸が射線上にあるショルシエの魔法を撃ち落として行く。ノワールちゃんの最後の気遣いみたいです。
少しでも威力や弾道が逸れないようにしてくれたんだとわかります。
「撃てぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
絶叫に近い大声で、放つ。地面を抉って、空気を押し退けて、轟音を立てて放たれた渾身の魔法。
直撃すれば妖精だってただでは済まない威力。太鼓判はパッシオさんにももらっています。
避けられる距離でもない。転移魔法を発動しようとする素振りは見せた瞬間ノワールちゃんが潰してくれます。
そのための布陣を敷きました。コレで、コレで!!
「……」
確実決めた、そう確信して放った。逃げも隠れもさせないその状況を作った。
ショルシエからすれば絶体絶命。そのはずなのに、ショルシエは今までとは打って変わって身じろぎ一つしませんでした。
そうしてショルシエが魔法に触れる直前。彼女の顔は邪悪に歪み、その口は体格に見合わない大きさに開かれ、私の魔法を飲み込まれました。
「な……っ?!」
「なんすか、それ……」
強固な外殻を持つバハムートにすらダメージを与えられると自信を持って言える規模の魔法。
それをたった一口。
ショルシエにあっさりと飲み込まれた魔法。私もそれを側で見ていたクルボレレさんも、呆然とする以外出来ることがありませんでした。
「中々良い魔法だ。間違いなくただの妖精ならあの一撃で瀕死に追い込むことが出来ただろう。だが、相手が悪かったな」
もぐもぐと魔法を咀嚼して飲み込んだショルシエは満足そうに口元を拭って、笑みを浮かべています。
みるみるうちにクルボレレさんが負わせたダメージの痕跡である、身体から漏れ出た魔力の燐光は収まって行き、あっという間にショルシエは完全に傷を癒やしてしまいました。
「私相手に『魔法』で相手をしたのが運の尽きだ。『魔女』と呼ばれる私に、魔法少女ごときの魔法がマトモに効くと思うか?」
「それ、は……」
確かにそうだ。『魔女』とまで言われた妖精に私達の魔法が通じるかどうか、それは確かにそうだけれど、こんなあっさりと無力化されるなんて聞いていない。
思えばショルシエに通じた魔法の数々は殆どが近接戦闘の延長であって、純粋な魔法では無い。
でも、だからと言ってそんな、そんなことが……!!
「チャンスを目の前に転がされると飛び付いて来て、目が眩む。それが私にとっての最大のチャンスであり、貴様らの希望とやらを完膚なきまでに叩きのめすための最高のタイミング。……ずっと待っていたぞ、そのタイミングをな!!」
高笑いするショルシエ。魔力、体力がそれぞれ限界の私とクルボレレさん。ノワールちゃん一人でどうにか出来る状況では、既に無い。
【逃げて!!アメティアお姉ちゃん!!クルボレレお姉ちゃん!!】
「ショータイムだ魔法少女。貴様らの全てを踏みにじってやろう」
歪んだ笑み。全てを見下して、冒涜しているかのようなその表情と、突然光出した地面を最後に、私の意識は途絶えた。




