天幻魔竜
焦げ臭い匂いが辺りに漂う。地面も空気も何もかもが焼き尽くされたその熱気だけで、ただの人間であれば肺が焼けただれ、死に至るだろう。
「なん、つー威力だよ」
「撃たせるな、というのも分かるなコレは」
「ノーチャージでこんなのなら、本当に全力で撃てば確かに街一つなんて余裕よね」
率先した回避行動を取っていた3人は無事で私とパッシオの隣に戻って来る。
それでも頬や服の一部が煤けているのを見れば、遠方にいても届くとんでもない熱気だったことが分かる。
ルビーの言う通り、これがノーチャージで放たれたドラゴンブレス。これが以前戦った地竜のように長いチャージ時間をかけて放たれれば、私達も一度は聞いたことがある『天幻魔竜 バハムート』の所業の一つである、ブレスの一つで小国一つを焼き払ったという話にも現実味を帯びて来る。
「逃げた小娘と紅炎のはともかく、背に乗る小娘もピンピンしとるか。我が炎を受けてなお、平気な顔をしているのはあやつ等くらいだったものよ」
「防御には自信があるの」
「くかかか、戦いを不得手としながらも我が炎を耐えるその様、ますます奴らに似ている。貴様はそうだな、『封絶の魔法少女 アストロメリア』にそっくりだ。そのふてぶてしさも相俟ってな」
『封絶の魔法少女 アストロメリア』。世界を変えた10人の魔法少女の中心人物であり、人類最大の被害を出したS級魔獣『人滅獣忌 白面金毛の九尾』を命と引き換えに封印した大英雄と似ている。
そう評価されて嬉しい限りではあるけれど、実際に私のしたことは周囲に漂わせていた障壁をそれこそ何百重にも重ねてようやく。
魔力がある限りはあらゆる物質物体、生命問わずに封印し、それらを無力化出来たという最強の一人とは天と地ほどの差があるはずだ。
私は何百枚もの障壁を消費してやっと出来ること。何十回も同じことは出来ないし、間に合わなければ終わりだ。
正直、震えるほどに恐ろしい。次の瞬間には灰も残らずに一瞬で死を迎える可能性があるこの戦いが怖くないわけが無い。
ふてぶてしいなんて評価は間違っているけれど、それでも私はニッと笑ってパッシオと一緒に飛び出した。
「パッシィ!!」
「OK!!」
いつも通りの短い会話。それだけでパッシオは私のやりたい事を理解してバハムートの周囲を走りながら次々と炎の球を飛ばしていく。
それを爪で斬り裂き、炎で迎え撃ち、尻尾で弾くバハムート。その中には他の魔法少女達の攻撃も入り交じり、戦いはより苛烈になっていく。
中心に立つバハムートは依然として高い攻撃力と防御力、そして高い戦闘スキルでこちらの決定的な一撃を許さない。
対する私達は勝っている数と機動力で攻めて行く。戦況は横ばい、私達の誰かが致命的な一撃を受けるか、バハムートの体力が尽きるかの持久戦の様相を呈してきた。
「走り回っているだけでは我を打ち崩せぬぞ!!」
「言われなくても!!」
ただ走り回ってるだけではないのはバハムートだって分かっているはずだ。何かをするためにぐるぐると周囲を走り回っている。
それでも真正面から受けて立つというわけだ。ショルシエのようなこちらを見下している訳では無い。
こちらを認めたうえで、それでもなお真正面から叩き潰すというポリシーのようなものなのだろう。だったら、それを少しでも上回ってやろうというのがこちらの意気込みだ。
パチンと音を立てて両手を合わせる。すると、バハムートの足元からにょきにょきと植物のようにして障壁が生えて来る。
それらが蔓のようにバハムートの足を捕えると、見る見るうちに全身を絡めとり、バハムートを拘束した。
過去に何度も使っているいくつもの障壁を相手の身体にくっつけて自由を奪う拘束技の発展形だ。
より動く余地のないように、身体と障壁の隙間を無くして障壁自体で絡めとる。
「なんと奇天烈な……!!だが、我が炎の?!」
ブレスを吐こうとした口までも障壁は伸び、その口が開かないように巻き付く。これで一番の障害が取り払われる。
【解析がっ、終わりました!!バハムートは復活したわけではありません!!あくまで5枚のメモリーに分割されている魔力がそれぞれバハムートの一部を再現しているだけです!!】
そしてそのタイミングで雛森さんからの連絡が入って来る。全員が魔力を高めている中、もたらされる情報に今の状況で利用できるモノが無いか全員が期待をして。
【ごほごほっ!!――あのバハムートはいわば継ぎ接ぎの状態!!それぞれ、『頭』『腕』『脚』『尻尾』『翼』が肉体の元になった魔獣にくっ付いてるだけ!!それぞれの付け根を狙ってください!!そこが一番脆いはずです!!】
咳き込む雛森さんから最も欲しかった情報が飛び込んで来る。バハムートは拘束されている。暴れているため、短時間ではあるのは間違いないけれど、この情報とチャンスを今ここで生かさないわけにはいかない。
全員が持てる全力で一斉に飛び込んだ。最初で最後かもしれないこのチャンスに飛び込まないワケが無かった。




