天幻魔竜
投げ付けられたメモリー飲み込んだトカゲ頭の魔獣はおもむろに隣に寄り添っていた尻尾の生えた女性の首を掴む。
それを持ち上げたと思った次の瞬間には、大口を開けたトカゲ頭の口の中へと放り込まれ、女性は丸呑みにされてしまった。
「なっ?!」
「一体何を……?!」
驚く間もなく、次はクライスが異常に開いた口で同じように丸呑みにされる。
まるで蛇だ。咀嚼する事なく、獲物を飲み込んだトカゲ頭の魔獣はそれらをなんなく身体の内に収めると黒紫色の澱んだ魔力が炎となって噴き上がった。
「コイツは……!!」
「オイオイ、冗談だろ!?」
圧倒的なまでに膨れ上がった魔力に魔法少女達は顔色を変える。
今まで感じた事の無いほどの巨大な魔力。それが目の前で一つの塊となって燃えている。
これが何を意味するかは、理屈を分かっていない私達ですら何となく理解することが出来た。
蘇るのだ、文字通り。人類の天敵が。
「ふはははははははははは!!!!久方ぶりの生きた我が肉体よ!!待ち侘びた!!待ち侘びたぞ!!」
炎の中から聞こえる高笑い。カタコトだったそれが流暢な言葉として、私達の耳に届く。
それにすら乗せられた重圧に私達は冷や汗をかいて見つめるしか出来ない。
そして、その炎が振り立てられた翼によって振り払われる。
身体が飛ばされそうになる風圧を踏ん張って耐えた私達は、そこに現れた一体の魔獣をその視界に収めた。
「今一度、我が名を名乗ろう!!憎き魔法少女ども!!
巨大な身体にそれを支える強靭な4本脚。その四肢に付く爪は鋭く、鋼鉄さえ容易く引き裂きそうだ。
全身は鈍いながらも黒く光る堅い外殻に覆われているのが分かる。
巨躯に見合った長く太い尾、それを飛行させるための蝙蝠とは似ても似つかない、翼膜の張った翼。
長く伸びた首に、獅子ともワニとも取れるような厳つい頭に鋭い牙が並んだ顎。
私達が大人達に教えられて来た、人類を脅かしたそれと酷似した姿。
「我が名は『天幻魔竜 バハムート』!!貴様らを焼き尽くす誇り高き竜の王なり!!!!」
聞こえて来た咆哮と灼熱の焔。竜の王を名乗るには十分過ぎるバケモノが私達の前に現れた。
姿を見てるだけで圧倒される私達。これが、今回の敵だということに絶句するしかない。
勝てるのか、これに。全員の脳裏に浮かんだ事なのは間違いない。
【皆さん!!聞こえますか!!】
そこに雛森さんからの通信が入る事で私達はハッと意識を切り替える。
指示を出すハズの番長ではなく、裏方の雛森さんからの通信に私達は耳を傾ける。
唯一、この魔獣と戦った経験のある魔法少女の大先輩に。
【田母神さんは街の騒ぎの鎮圧に向かいました。増援は望めません。そして皆さんの目の前にいる敵を放置して、撤退するワケにも行かなくなりました】
「あぁ、どうすりゃいい?」
【……私が、『千里眼の魔法少女 ヴェルター』が皆さんをサポートします。少し時間がかかりますので、私の知っている最小限の気を付けるべきポイントを伝えます】
『千里眼の魔法少女 ヴェルター』。かつて、今私達の目の前にいるこのバケモノと戦った1人からのサポートは心強い。
だけど、それですら盤石ではない。過去に『天幻魔竜 バハムート』を討伐する際ですら、世界を救ったと讃えられる10人の魔法少女の内2名が亡くなっている。
どちらも私達よりずっと強い魔法少女だったことは想像に難くない。
それが2人、この魔獣に殺された。
かの10人より戦力の低いだろう私達相手では、果たして何処まで通用するか。それに、敵は1人ではない。
「随分と機嫌が良さそうだな」
「当然よ。貴様とて、そうなると思えば気分も良かろう」
「否定はしないな」
敵には妖精でも強力な魔法を操るショルシエがいる。
私達が相手をし切れるかどうか、全くビジョンが見えない。
でもやるしかない。やるしかないのだ。私達の後ろには何十万人もの命がある。
【全ての攻撃が必殺級のそれですが、ドラゴンブレスだけは撃たせてはいけません。あれだけで街が滅びます。それだけは絶対に撃たせないで下さい】
「中々無茶な注文ね」
「だが、やるしかあるまい」
「抑えは僕がやる。皆は一撃をもらわないように」
「そうするしか、無いわよね」
絶望している暇すら無い。私達は立ち向かわなければならないのだ。
その結果、命を落としても。




