天幻魔竜
上空から魔法少女達の状況を見る限り、やはり押されている。
元より妖精という時点で魔法少女よりも格上なショルシエ。かの『天幻魔竜 バハムート』を元に作られただろう魔獣が3体。
恐らくは全員が元人間であり、ショルシエの手により魔獣へと改造された者達なのだろうけど、S級魔獣の壁は高い。
過去に討伐されたバハムートが何故今の時代に?など疑問に思うところは多数あるけれど、それは戦いの中で、あるいはショルシエが勝手に答えるかも知れない。
何にせよ、あの魔獣とショルシエは多数の魔法少女とパッシオをまとめて相手取り、優位に立つ事が出来るほどには強い。
これだけ分かっていれば今は十分だ。
障壁で作ったグライダーから手を離し、自由落下を始める。このまま行けば当然私もただでは済まないけど、この高さを利用しない手はない。
障壁魔法を展開し、ショルシエに狙いを定める。リーダー格を狙うのは戦いの常套手段。
まだこちらに気付いていないなら、尚更だ。
右脚に幾重にも障壁を重ねがけして、強固な鎧とする。あとはまぁ、単純だ。
「これでもーー」
体勢を整えて射程に収める。多少のズレは障壁を伸ばしたりなんだりして調整すれば良い。
とにかく1発ぶち込むのが私個人的にもしておきたいところなのだ。
「喰らえっ!!」
「……?!」
振り切った右脚がショルシエの側頭部に直撃して、十数m程吹き飛ばす。
反動で私も吹き飛ぶけどこっちは障壁のクッションで対処。ただ、めちゃくちゃ脚が痛いので次はやらない。治癒魔法あって良かった。
「あ、アリウムっ?!」
「アンタ何処から来てるのよ?!」
「相変わらずぶっ飛んでるっすね」
「まぁ、アリウムさんですから」
何故か散々な言われようだ。ちょっと空から来て、気に喰わない奴の頭を蹴り飛ばしただけなんだけどな。
あー、脚いったい。
「アラテカ。アイカワラズ、クッテモクッテモワイテデル」
バハムート擬きが何か喚いているけど興味はない。まずは無事に全員合流。
事態の改善はここからだ。街の方はシャドウが何かするだろう。
脚の痛みもようやく引いて、しっかり立ち上がるとショルシエの方もまるで幽鬼のように立ち上がるところだった。
怒りで震えているのがこちらから見ていてもよく分かる。相変わらず沸点が低い妖精だ。
「やってくれるな、小娘ェッ!!」
「来るぞ!!」
吠えたショルシエの背後に大量の魔法が現れ、一斉に放たれる。
作りは雑だが内包する魔力量だけは立派だ。障壁で真正面から受け止めても良いけれど、コレだけの数と威力となると少しばかり不安がある。
ここは程々守りながら、各自対応が好ましいだろう。
そう判断して、私は空中に漂う障壁を無造作に展開する。
不特定多数で大きさもバラバラだが、それで良い。
今回は防ぐのが目的ではなく、威力の減衰が目的だ。後はそれぞれ対処してくれる。
そして想定した通り、彼女達はそれぞれで対応してくれた。
アズールは水の魔力で纏めて巻き込んで撃ち返しているし、ルビーやフェイツェイは剣でただし落としてる。
クルボレレは全部避けて、アメティアは全部撃ち落として。
ノワールに関してはそもそも射程外なので私の障壁の合間を縫って、あちらを狙い撃っているくらいだ。
私はパッシオに乗って、障壁で防ぎながら避けたしね。
フェイツェイとグレースアに聞いた通り怒りやすくて御し易いのが弱点ね。
プライドが高いのも考えものだわ。怒っても雑になるだけだから、冷静になった方が何倍もマシなのだけれどね。
それを許さないのが、プライドなのだろう。
「ハハハハハ!!イイヨウニヤラレテイルナ、メギツネ」
「黙れ。誰が生き返らせてやったと思ってる」
「ナラバハヤクノコリノチカラヲヨコセ。ダシオシミヲシテイルノハワカッテイル」
それを味方であるはずなのに嘲笑うトカゲ頭の魔獣と、その後ろに寄り添う尻尾の生えた女性。
毛むくじゃらで両腕が爬虫類めいたそれに変わっているクライスは不自然なくらいに静かに佇んでいる。
それぞれ、私がいない間に姿形が変わり、より爬虫類めいた風貌に。
いや、ドラゴンのそれへと変貌を始めているのだろう。
そして、今この段階ですら出し惜しみをしているという事も、ショルシエとトカゲ頭の魔獣の会話で分かった。
「蹂躙するのは貴様の方が好きだし得意だろう。精々暴れ回れ、仕事をしてくれればこちらは何の文句も無い」
「ソレデヨイ」
そうして、ショルシエは懐からメモリーを取り出す。
黒紫に染まったそれには、歪な竜の紋様が浮かんでいる。
それを、トカゲ頭の魔獣へと投げ付けると再び変化が始まった。




