侵攻
バチバチと飛び散る火花を私は身を翻しながら避ける。
まさかまさか、自分がこうして武器を手に戦う日が来るなんて思いもしなかった。しかも、魔法を使う者を相手取って。
「やぁっ!!」
お嬢様達の警護のため、普段から携帯している折り畳み式で金属製の棒を突き出し、襲い来る電撃を叩き落す。
鍛えたかいがあるものだけど、そういつまでも続かない。私1人では限界がある。
子供の頃、通っていた道場の師範の1人が見せてくれた特別な技。
見様見真似でそれに近付ければと思い、鍛え、研ぎ澄ませたとはいえ、それやはり猿真似。
本物には遠く及ばず、人の範疇でしか私は強くなれなかった。
これが魔法少女になる才能の一つでもあれば、直接お嬢様達をサポート出来たと言うのに。
もどかしい限りですね。
「ーーぐぅっ!!み、弥子殿っ、早く、離れっ!!」
「そうはいきませんっ。苦しむ貴方を放って置くこと出来ませんし、離れたら状況は悪化しますから、ねっ!!」
再びカレジさんの身体から漏れ出し、こちらに飛んで来た火花を叩き落す。
本物の電気であれば感電必須なのでしょうけど、幸いあちらは魔法。
雷属性とは言うものの、見た目と性質がある程度似ているだけで金属を伝って来る事がないのがありがたい事です。
コレが本物の雷であれば、私は今頃黒焦げですから。
「です、が……っ!!」
「他人の心配をする前に自分の心配を!!意識をしっかり保って下さい!!」
「ぐぅぅ、あぁぁァッ!!」
雄叫びを上げ、身体から雷属性の魔力を吹き出すカレジさんは見ていて痛々しい程です。
避難誘導の補助をし、一通り周囲の方々が屋内待避を済ませたところで突然苦しみ出したカレジさんの身体には、私から見ても禍々しい紋様が首から顔、腕や脚まで全身に浮かび上がっています。
コレを私は過去に見ています。
同じ物かは判別が付きませんが、お嬢様達のご友人であり、今では立派に魔法少女を熟されている要様が、【ノーブル】というテロ組織に施された紋様。
それとよく似ていると思います。
アレは人の意識を乗っ取り、意のままに操る為の物で、それが原因で要様は半年近く意識を失っておりました。
「カレジさん!!しっかり!!このようなところで負けてはなりません!!」
「ぐっ、はぁっ、ぅぅぅ……っ!!」
人の意識を乗っ取り、意のままに操る技術。恐ろしい限りですが、本当に恐怖を感じているのはその技術に襲われているカレジさんのはず。
自らの意識を飲み込もうとする何かを精神力一つで寸でのところで踏ん張っている彼を残して、1人で逃げる程、私は薄情なつもりもありません。
故郷を理不尽な暴力で失った。その辛さは私にもよく分かる。
その辛さと悲しみを、諸星家の人々は癒やしてくれる。
【ノーブル】から来たと聞いて、当然警戒もしましたが身の上を聞き、短いながらも共に過ごして、見捨てる事など出来ない。
「大したものだな。生身の人間が妖精相手に一歩も引かんとは」
「ホント。凄いわよね」
「ぎゃう!!」
何度となく飛んで来る火花をしっかりと目で追い、叩き落さんと構える私の背後から、2つの声と1つの鳴き声が聞こえる。
同時に飛んで来た人影が火花を全て弾き飛ばし、見上げる程の巨体が私を覆う様にして立ち塞がった。
「あ、あなた達は……?」
私が身を守るのに精一杯だったそれをあっさり捌き切った2つの人影と、1つの巨体。
巨体の方は分かる。これは街で飼っている亀の魔獣ノンちゃん。ですが、残り2つの人影は一体誰なのか。
「何、少々やり口が気に食わないから手助けに来た臨時の助っ人だ」
「ノ、【ノーブル】の……っ!!」
「カッコつけてるんじゃないわよシャドウ。メイドさん、悪いけどもう一仕事頼める?打開策を持って来たわ」
フードを目深に被り、人相が分からない【ノーブル】の特徴でもあるローブ。そしてシャドウと聞いて驚く私に、2人は待ったを掛ける。どうやら、今の彼らに敵対の意思は無いらしい。
むしろ私に今の状況の打開策を持って来たのだとか。にわかに信じがたいですが、ノンが2人の内の1人である女性をその背に乗せている辺り、本当に味方であるのだろう。
魔獣とは言え、かなり頭が良い。敵と味方くらいの判別はすぐに付けるノンに視線を向けると、んぎゃっと元気に声を出している。
「……お願いします!!」
「よっし!!交渉成立!!シャドウ、あの勇者君の厄介な電撃を任せるわ!!」
「頼まれた。さっさと終わらせろよ、アフェット」
「ぎゃうぎゃう!!」
頭を下げてお願いすると、指パッチンをしてアフェットと言うらしい女性が支持を出す。
少し面倒くさそうに答えるシャドウと、元気いっぱいなノン。そして私。
メイドと【ノーブル】所属の2人、そして魔獣。不思議な共同戦線が、今ここに誕生しました。




