侵攻
土塊と炎の花びらをぶつけ合いながら、焦りが募る。シャドウと私との戦いはほぼ対等で、お互い削り削られ、長い戦いが嫌でも想定される程に拮抗した戦いになっていた。
私が攻めればあちらが力押しで押し返し、あちらが攻めれば私が防ぎきる。
防御に分がある私、力に分があるシャドウ。色々な噛み合いも含めて私と彼の戦いは決着がつくのかもわからない程、本当に五分五分の戦いをしていた。
これがパッシオがいれば私の方に分があったのだけど、少し前にパッシオはルビーの下に向かわせてしまった。
こっちのアドバンテージを失った以上、戦いが長引くのは分かっていたけど、ここまで長引くなんてね。
「――!!」
「――ッ!!」
声を出す間もない戦いの中で、私はチラチラとパッシオを向かわせたルビー達の方向へ視線を向ける。
嫌な雰囲気の魔力がより膨れ上がっているのを感じ取りながら、先ほどの通信の内容を頭の中で反芻させ、彼女達が無事であることを祈る。
S級魔獣『天幻魔竜 バハムート』。数年前に当時の魔法少女達に討伐され、今いるはずのない人類の天敵と同じ魔力を持った異形の魔獣達。
それに気づいた番長と雛森さんがそれらと戦っていた魔法少女達に撤退指示を出し、自身が動く判断をしたけれど、直後には市街地でなんらかの爆発か何かが起こった様であった。
通信越しに雛森さんが言っていたのは雷属性の魔法の発動。ともすれば、恐らくカレジに何かがあったのだと思う。
裏切ったのか、何かを仕組まれていたのか、単純に敵を迎撃しているのか。それともこれらの予想が全て外れているのか。
そのどれかも分からないまま、私は私が今戦っているシャドウという強敵をここに縫い留めるのが今出来る仕事になっていた。
「あちらが気になるか?」
「そっちも、随分と街の様子を気にしてるじゃない?」
そして、シャドウもどうやら街の様子を随分と気にしているようだった。この拮抗した戦いはお互いがお互い、微妙に戦いに集中出来ていない事も原因の一つかも知れない。
とは言え、だからと言ってシャドウを街に向かわせ、私が仲間たちのところへ向かう訳にもいかない。
相手は【ノーブル】。何を企んでいるのか分からない以上。ここで倒すのが正解なのだから。
「そうか?あまりそのつもりは無いんだがな」
「チラチラと街を見てるのが丸わかりよ。何を企んでるのか知らないけど、一歩も通さないわよ」
「企み、か……」
街を気にしていると指摘するとシャドウ自身はそのつもりは無かったと言う。つまり無意識に気にしていた、ということだろうか。
別に何か企みがある訳ではない……?まぁどうあれ通すつもりは微塵もない、こいつを倒してさっさと皆のところに行かないと。
燃える花びらを操り、飛びかかるタイミングを図る私に唐突にシャドウが口を開いてそれを止める。
「なぁ、少し取引と行かないか?」
「却下よ」
「少しくらいは聞いてくれ。なに別に大したことじゃない。この戦いを辞めて、お互い向かいたい場所に向かうってだけだ。都合が良いだろう?お前も俺も」
「貴方バカなんじゃないの」
そんなことする訳ないでしょう。【ノーブル】を街の中に入れるってだけであり得ないんだから。
何をするのか分からないテロリストを守るべき街に入れて良いわけが無い。
勿論、魔法少女達の下にも一刻も早く向かいたい。だがそれはシャドウを倒してからの話。取引と言って、見逃すわけにはいかないのだ。
「バカだろうな。それは認める。感情で動くなどバカのやる事だ」
「それは私達の事をバカにしてるのかしら?」
「だが、心の赴くままに為すべきことを成し遂げる者は、見てて清々しい。美しいとさえ思う」
「……?」
なんの話をしているんだこの男は。基本的に理屈でも動くけど感情も大事にする私達をバカにしたいのか褒めたいのか分からない。
というか、人と言うのはそういうものだろう。理屈だけで動けるのならそれはロボットか人形だ。人間にはとてもじゃないけど出来ない。
だって心があるから。いつだって、人の原動力は心だ。まるで自分にはそれが無いような言い方は気にかかる。
「なぁ、アリウムフルール。俺はそんなバカで美しい者になれると思うか?」
「……貴方、何がしたいの?」
「さぁな、全く分からん。俺は今まで言われたことを熟していればそれで良かった。それで全てが完結していた。小さな世界では、それで良かった」
目の前のシャドウという男が、少し分からなくなる。元から理屈っぽいのは何となく察していた。
忠実に【ノーブル】の仕事を遂行する仕事人。それが私にとってのシャドウの印象であり、その中に美学のような、自らの中でも多少なりのルールのようなものを感じていた。
それが、まるで悩める中高生のようなうわ言を発しているのだ。どうすればいいのか分からなくなるのは仕方のないことでは無いだろうか。
「なぁ、アリウムフルール。俺が、何かを守りたいと思うのは、おかしな事なんだろうか」
それを聞いて、私は――。




