天幻魔竜
灼炎、業火。そう呼んでも一切見劣りすることの無い灼熱の炎。
黒紫のその炎が眼前に迫った時、素直に死んだと思った。
これは直撃したら灰すら残らないのではないか、そう思える程の圧倒的な熱量。
私には到底出し得ないレベルのそれを食らえば、死ぬのは確定的。
油断はしてなかったと思う。だけど、こうまであっさり死ぬのか走馬灯のようなものが駆け巡る中で、それと同等の炎が私の背後から飛んで来て、黒紫のその炎と相殺される。
「ルビー!!」
「……パッシオ?」
やって来たのはアリウムと一緒にシャドウと戦っていたパッシオだった。
いつもよりも紅色の炎をチラつかせるパッシオが、あの黒紫の炎を相殺したのだ。
妖精だから出来たこと、なんだと思う。少なくとも、私目線であの炎と同等の火力を出せる魔法少女が、いるとは思わない。
それ程の炎だった。
「ここは僕に任せるんだ。君達は一度体勢を立て直すんだ。特に魔獣と戦っている子達はね」
「なんで?!」
「分かるだろう?アレとは僕がやる。君達の手に負える相手じゃない」
突然の撤退指示。パッシオの言う通りではあるけど、納得は出来ない。
納得したら、退いたら負ける。私達がここから下がれば戦線は市街地に移るかも知れない。それだけは避けなきゃならない。
【緊急の命令だ、良く聞け。特に異形の魔獣と戦闘している、アズール、アメティア、ルビー、クルボレレの4名だ。今すぐパッシオに任せて退け】
【オイオイ、待てよ。コイツ相手に逃げろってか?!】
【こんなの街の中に入ったらヤバいっすよ!!】
同じタイミングで、番長からも指示が来る。魔獣と戦っている魔法少女達に向けてだ。
監督者であり、最終的な作戦の決定権を持っている番長ですらこの指示。
一体、何が起きているの。
「ホウ、ワガホノオトナラブカ」
「早く逃げろルビー。僕と番長達がこの魔獣の相手をする」
人間の身体で、長く首を伸ばすトカゲ顔が満足そうに口を開き、ズラリと並んだ鋭利な牙を見せる。
ワニだってあんなに牙は鋭くない。何処までも邪悪で、人を殺すためだけのような魔獣。
あれを前に逃げろだなんて、そんなの魔法少女になった意味がない。強くなった意味もない。
「なんでよ!!」
【良いから退け!!ソイツの本性はーー】
逃げちゃダメな相手なんだ。コレはダメだ。前のクライスの比じゃないのはあの短時間で分かった。
あの炎は街なんて一瞬で焼き尽くす。止めなきゃいけない。私達魔法少女が、ここで止めなきゃいけない相手だ。
「ゴギャアアアァァァァァッ!!!!!」
その気持ちすら掻き消すような咆哮が響き渡る。空まで響くような凄まじい咆哮。
強者が己の力を示す為のそれだと、肌で感じ、そしてそれだけの強大さがあることも今までの経験則で感じとる。
「ワガナハ『バハムート』!!テンヲセイシタリュウノオウナリ!!キデンノナヲキコウ!!クレナイノホムラのアルジヨ!!」
【ソイツらは『天幻魔竜 バハムート』!!かつてこの世界の空に君臨した、バケモノから出来た魔獣だ!!】
そして、目の前トカゲ顔がかつて人類の天敵だった。本物のバケモノだと知らさせる。
どんなに鍛えても、どんなに頑張っても個人ではどうにもならない強大な敵。
私達よりもずっと強い魔法少女を何人も喰った、正真正銘の怪物達と、私達は対峙していたのだった。
【皆は街を!!】
【厄介なのは私達で抑える!!】
シャドウとショルシエ、それぞれと戦っているアリウムとフェイツェイからも通信が入り、向こう側でも激しい戦闘が行われている音が聞こえて来る。
また逃げるのか、まだ力が足りないのか。前よりずっと強くなった。
皆となら何にだって負けないとまで思えるくらいになったのに、それすら思い上がりだったのか。
そうやって葛藤しているうちに、今度は市街地の方から轟音が鳴り響く。
【何があった?!】
【市街地、商業施設付近で突然魔力が……。雷属性?まさかっ?!】
通信端末の向こう側で、番長と雛森さんの焦りの声が聞こえて来る。
何が起きているのかもう訳がわからない。敵は既に市街地にいたの?なんで?ここにいる奴らですら、私達では手一杯だと言うのに。
「ーーっつう!!」
「うおっとと?!」
「よっと!!」
呆然と立ち尽くす私の元に吹き飛ばされて来たのか、魔法少女達が集まって来る。
それに応じて、ショルシエや魔獣も集まり、私達はシャドウとアリウムを除いて、この場に集結する事になる。
「さぁ、退いてもダメ。押すのも難しい。どうする?魔法少女」
愉快そうに唇を歪めるショルシエと、一瞬で劣勢に立たされた魔法少女。
勝ち目のある戦いなのかは、誰もわからない。




