侵攻
ウチの魔法具である戦斧『ヴォルティチェ』を肩に担いでクライスの前に立つ。
毛むくじゃらの身体に無駄に膨れ上がった筋肉。両腕は前の鎌みたいのからまた変わって、トカゲかワニのぶっとい腕みてぇな、爬虫類っぽい腕。
爪も太くて鋭い。あれで引っ掻かれたら肉ごと抉られるのが目に見える。
頭だけは元の人間のままのサイズらしく不自然に小さい。
ゴリラの図体にワニの腕をくっつけて、人間の頭を乗せたって言えば、何となく伝わるんじゃね?
「爬虫類の中には爪や身体に毒を持つ種もいます。直撃は避けてください」
「難しいこと言うぜ。ま、当たりたくもねえからやるだけやるけど」
あんな爪と腕から攻撃なんてモロに受けた日にゃ病院送りは確実。
痛い目にはあいたくねぇしな。後ろにいるアメティアの話はしっかり聞いておくにこしたことはねぇ。
それにしても随分おとなしい。以前は戦闘となりゃ襲い掛かって来るような、脳みそまで筋肉で詰まってそうな相手だったんだが。
あちこちで戦いが始まっているっつーのに、コイツは珍しく突っ立ってるだけだ。
「……マホウ」
「あん?」
「マホウ、ショウジョ」
どうすっかなと思ってると突然喋りだす。相変わらず
魔法少女、魔法少女って、ストーカーかよコイツは。
気持ち悪りぃなと素直に感想をボヤいていると、毛むくじゃらの向こう側でニィッと唇が歪んだのが見えた。
その瞬間、背中にぞわりと悪寒が奔って咄嗟に『ヴォルティチェ』を盾代わりに地面に突き立てる。
少し遅れて、両腕と脚に衝撃がかかる。
「っ!!こんにゃろ!!」
「マホウ、ショウジョ!!マホウショウジョ!!クウ!!クウ!!クウ!!」
「うるっせぇ!!アメティア!!ぶち込め!!」
騒ぎ立てながらウチに目掛けて拳を振り下ろしまくるクライスに、アメティアが魔法をぶち込んで吹き飛ばす。
ったく、とんだ馬鹿力だ。前からだけど更に上がってやがる。
こりゃこのままだと押し負けるな。
メモリーを取り出す。勿論、『優しさ』のメモリーだ。今回も頼むぜ。
【Slot Absorber!! Zartheit‼︎】
Slot Absorberに差し込んで起動。水属性の青い魔力が漏れ出して、ウチの身体を包み込む。
その間にやって来たクライスをアメティアが迎撃して少しだけ時間を稼ぐと、ウチの強化は終了だ。
「激流の魔法少女 アズール・ワイルド。潰して壊して、切り開く!!」
周りにあった魔力の渦から飛び出してクライスの方に鎖を伸ばす。
腕に巻き付けた鎖を引くと、体格的に劣るウチの身体が浮いてそっちに向かうけどそれで良し。
「っらぁ!!」
「ガッ?!」
飛んで来た私に思いっきりグーで殴られて仰反るクライス。小さい頭はやっぱ防御それなりらしい。狙うならここか。
暴れるクライスから離れると、入れ違いにアメティアの魔法が顔面に殺到する。
後ろをチラ見すると、紫色のレンズをした片眼鏡をしている。早速使うらしい。
ウチも出し惜しみしてる程暇じゃねえな。
さっさと決める。長引かせる理由もねぇしな。
【Memory Boost!!】
「『固有魔法!!』
パワーには向こうに分がある。その差をちっとでも詰めておけば、楽にやれる。
「『WILD BLUE』!!」
ウチと『優しさ』のメモリーから噴き出た魔力が身体にまとわりついて薄く光る。
周りが言うには目が青く光ってるのが1番の特徴らしいけど、この『固有魔法』の強さは光るなんて子供騙しのもんじゃねぇ。
アメティアが撃ちまくる魔法の隙間を縫って、鎖をぶん投げて魔獣に巻き付ける。
ここまではさっきと一緒だ。さっきはここで腕を引くとウチの方が力負けしてた。
「潰れろ」
「ーーッ!?!!」
だけど今度は逆だ。鎖を引かれて、ウチの方にすっ飛んで来た魔獣を『ヴォルティチェ』で地面に叩き付ける。
声すら上げられずに地面とキスしたクライスを繋いだままだった鎖で上に引き上げてフルスイングでもう1発。
モノスゲェ勢いで飛んでいったクライスを目にしながら、番長に連絡を入れる。
「なんかきなクセェ。番長から見てどうだ?」
【自信満々だった割には、って印象ね。恐らく本番はここからよ。気を引き締めなさい】
気を緩めるなと注意を受けて、『ヴォルティチェ』を改めてしっかり握る。
タフさだけはヤバかったからな。警戒しておくに越したことはねえか。
「ーーマホウショウジョ、クウ」
「……なんだ、ありゃ?」
「翼、コウモリでしょうか……」
吹き飛んだ先、背中にコウモリみてぇな翼を生やしたクライスが出て来て、ウチとアメティアは目を丸くする。
そして番長の言う通り、ここから先が本番だった。




