侵攻
各自、割り振られた戦いが苛烈に始まる中、私達とショルシエの戦いは比較的静かに始まったと言えるだろう。
右手に『翠嵐』を握り、ショルシエの前に立つ私に対して相変わらずショルシエは腕組みをして性格の悪そうな笑みを浮かべるだけだ。
「構えないのか?」
「必要があるのか?」
戦いにおいて、構えというのは存外大事なもので、動きの起点にはなるし、これから攻撃するぞという意思表示は牽制にもなる。私個人としては集中力が高まる一種のスイッチのような役割が最も重要だと考えているが、ショルシエがそれをしないと言うならそれでいい。
一度敗走に追い込んだからと言って、次もそうできるかと聞かれれば私達はNOと答える。元より格上な相手、次に戦う時はより苛烈になると考えるのが普通だろう。
逆にあちらは一度敗走にまで追い込まれた相手が、再び敵として立ちふさがっているのだから、次こそは負けないための対応をするのが当たり前だと思っているのだが、まぁあのいかれポンチクソ妖精に何を言っても無駄だろう。
【今スッゴイ暴言聞こえた気がしたんだけど】
「気のせいだ」
【あ、はい】
さて、向こうが構えないというのならこちらから行こう。わざわざ待ってやる理由もない。
Slot Absorberとメモリーを構える。油断していい相手ではないのはさっきも言った通り。
最初から全力で行く。
【Slot Absorber!! Howk!! Frozen!!】
【Double Slot!! Full Synchro!!】
「行くぞグレースア」
【OK、フェイツェイ!!】
メモリーを2本差し込み、私の姿が変わる。これが私達の今の全力。
奴が油断していたこの前は通じたが、果たして今回は通じるかどうか……。
透き通る氷の刀身になった『翠嵐』を片手に翼をはためかせ、飛翔。
まずは小手調にグレースアに氷魔法を撃ち込んでもらう。
「自信あり気な理由はそれか」
「貴様の剣は厄介なのは認める。だが、刃が通らない剣などただの棒切れ。魔法は初めから私が優位だ。勝ち目があると思うか?」
「試してみようじゃないか」
氷魔法がショルシエに殺到すると不自然に氷魔法が空中で止まり、砕ける。
目を凝らせば障壁を幾重にも重ねているようだ。分厚いだけでは斬られるということは確かに学んでいるらしい。
だが、それだけで止まると思うなよ。
初めてこの姿になった時から時間は経っている。特に『鷹』のメモリーは長い時間をかけてアレコレ試した。
これは、その一つだ
「どうした?大したことないようだが?」
「……ほう?面白い事をするな」
一閃。
目を凝らし、刀身を滑らせるように狙い通りの場所に刃を走らせるとまるでバターのように斬れていく。
異変を察知したショルシエの尻尾にそれは受け止められるが、ギリギリと音を立てて鍔迫り合いをしている状況は以前と変わらないだろう。
「その目か。ただの魔獣のメモリーからそこまで力を引き出すとはな」
「おかげさまでな。随分と馴染んださ!!」
氷と風、魔法をそれぞれグレースアに任せて発動。
私が狙いたいところに寸分違わず放たれたそれは障壁を切り裂き、貫通する。
鍔迫り合いをしていたショルシエは追加の障壁と魔力を爆ぜさせてこれを撃ち落とし、爆風に身を乗せて地面に着地する。
「魔力と魔力の継ぎ目を狙う。馬鹿げた話だ。理論上は理解出来るが、それを実践するとは」
「だがお前にはよく効くだろう?特にお前の魔法はーー」
巻き起こした突風に身を乗せ、一瞬で飛翔する。『鷹』のメモリーで現れれる翼は文字通り鷹の翼。飛び上がるよりは風に乗って飛翔、滑空する事に向いている。
風の魔法と組み合わせる事で、上下左右自由自在だ。
ルビーの高機動性やクルボレレの持つ速度にはそれぞれ劣るが、流動的に立体的に動き回り、緩急のついた私の攻撃範囲はそれはそれで厄介だと周囲からは評価された。
【Memory Boost!!】
「『固有魔法』」
上空高くから狙いを定め、急降下。『鷹』の狩りと同じだ。上空から獲物探し、狩る。
『鷹』のメモリーが最初に私の思うように扱えなかったのは、『鷹』という生き物に理解が無かったからだ。
飛ぶ事を覚え、鷹という生き物について調べると面白いくらいに思い通りに動き回れるようになった。
恐らく、メモリーを使いこなすというのはそういう事なのだろう。
「相変わらずスカスカの粗い魔法だな!!ショルシエ!!」
風の爪を纏った踵落としがショルシエの障壁を突き破る。
徹底的な妖精対策をしてやった。ただで帰れると思うなよ。




