エンドレスラグナロク
「ゆるさんゆるさんゆるさん……」
パッシオのパンチで吹き飛ばされた『獣の王』が瓦礫を吹き飛ばしながら突っ込んで来る。
静かにぶつぶつと何か怨嗟の声を出しているのが気持ちが悪い。いつもだったら大声を張り上げながら怒りを露わにしているのに。
「許さん……!!」
どうやら怒りが頂点に行き過ぎて大声を張り上げるところすら通り過ぎたらしい。表情は相変わらずブチギレの顔だけど、その度合いは更に上ってところかしらね。
ただ、こっちだって散々溜まった鬱憤をここで発散させてもらうわよ。
障壁を展開。糸状に弾力性のある障壁を『獣の王』が向かって来る方向に蜘蛛の巣のように張り巡らせる。
障壁が防御として『獣の王』に効かないのはあちらもよく分かっている。だからこそ、『獣の王』は意も介さずにそのまま突っ込んで来る。
「――ッ?!」
「頭に血が昇り過ぎなんじゃない?」
弾力性を持たせた糸状の障壁はさっきも言ったようにまるで蜘蛛の巣だ。進めば進むほど、四肢に引っ掛かり、こちらに向かって来る勢いを落とし、動きを妨害する。
障壁が役に立たないのは主に『獣の王』の攻撃に対してだ。別に妨害や遅延といった搦め手全てが無意味になったワケじゃない。
「こんなもの、効くとでも!!」
「だから、僕がいるんだろ!!」
勿論、それが可能なのは一瞬だ。時間にして数秒が良いところ。所詮は細い糸状だしね。強度なんてたかが知れているわ。
でも私以外の強力な攻撃力を持った味方がいるなら、話は別だ。
「『紅蓮荊棘爪』!!」
両の爪に紅蓮の炎で作った棘を纏わせたパッシオが『獣の王』に肉薄する。勿論、パッシオが進んだ場所に張ってあった糸は全部解除済み。彼の動きを邪魔することは無い。
これに防御の動きを見せた『獣の王』。おそらく腕での防御を試みたのだろう。だが、それをまた糸状の障壁で妨害する。
時間にしてやはり数秒。たったそれしかもたない妨害。だけど、このレベルの戦いになってくれば、この数秒はあまりにも致命的な差だ。
「おおおおおおおっ!!!!」
右の爪が振り下ろされる。しかし、やはりここにも『壁』がある。阻まれたのがここから見ても分かる。それに『獣の王』がにまりと笑う表情も見えるけど、パッシオはそれだけじゃ終わらない。
次に左の爪。更に右、左と高速で何度も壁に炎の棘と爪を突き立てる。
一見、無意味にも見える。壁が突破できないのなら何度攻撃しても変わらない。だけど、彼は止まらない。
「馬鹿め、貴様ではそれを突破することは出来ん!!」
「あぁ、そうだね」
その無意味さを彼はあっさり肯定する。それに面を喰らった『獣の王』がその意図を理解しようとしている身近な逡巡の中。
『獣の王』は弾かれるようにその場にしゃがみ込んだ。
「ちっ!!」
その上を横薙ぎしたのはフェイツェイの刀。壁を両断するだけの力を秘めた、牙という技を持った彼女の攻撃は『獣の王』にとって致命傷を負わせるだけの一撃を持っている。
相変わらずそれを獣並みの危機感知能力で察知した『獣の王』に避けられてしまい、本人は舌打ちを打っていた。
直後、破裂するように魔力が膨れ上がるとフェイツェイとパッシオの2人は弾き飛ばされるようにその場から吹き飛ばされてしまう。
「パッシオ!! もっと注意を引きつけろ!!」
「相変わらず無茶苦茶言わないでよ。アレで手一杯だって。そっちだって攻撃が大振り過ぎなんじゃないかい?」
「簡単に言うな。アレを突破するにはあのくらいじゃないと刃も入らん」
それぞれ空中と地上で体勢を立て直すと、やいのやいのと言い争いを始める。フェイツェイのパッシオへの当たりの強さはいつも通りね。
何がそんなに気に食わないんだか。水と油とは言わないけど、なんか妙に反りが合わない2人なのよね。




