エンドレスラグナロク
【Beast UP!!】
【『執着』!!】
「『変身』!!」
紅蓮の炎に包まれたパッシオの姿が人型から戦う際の獣型の姿へと変わる。でも、いつもより明らかに大きい。
以前も3m程度の大きさのイタチにも似た姿をしていたけど、今のパッシオの体長は5m以上はあるんじゃないだろうか。
部分的に金色の鎧のような装飾も今まで無かったモノで、白い毛並みによく映えている。
変わらない紅蓮の炎は更に苛烈に。それでいて私達にはちっとも熱さを感じさせることは無い。
何より違うのはその魔力の圧だ。以前のそれとは全く違う。荒々しさすら感じる野性的な魔力とでも言うべきか。
質としてはアズールやルビーのそれに近い。今までのパッシオには感じなかった荒っぽさを感じる魔力。
これには心当たりがある。
「――王に歯向かうか」
殴り飛ばされ、瓦礫の中に埋まっていた『獣の王』が瓦礫を吹き飛ばしながらパッシオを睨みつける。
そう、これは『獣の力』だ。それに影響を受けている魔力は普通の魔力とは違って荒っぽさやささくれ立ったような雰囲気を感じる。
それをパッシオから感じることは無かった。しかし、パッシオは分身体『ベンデ』の尾とビーストメモリーを直接取り込んでいる。
『獣の力』の影響は他の妖精に比べて段違いと推測できる。むしろ、それだけのことがありながらこれだけで済んでいるのか、という感想まである。
『獣の力』に飲み込まれた妖精の魔力はこの比じゃないことを知っている。何より、パッシオが暴走したのを私は目の前で見ているのだから。
「だから言っているだろ。お前なんか僕の王じゃない!!」
「ほざけ!! 妖精如きがぁ!!」
魔法を振りかぶった『獣の王』に対して、パッシオの動作は洗練されていた。乱雑に力を振るう『獣の王』に対して、パッシオは素早く8本ある尾を操り、紅蓮の炎と共に『獣の王』に叩きつける。
予備動作を潰された『獣の王』は魔法を発動することは出来ず再び吹き飛ばされて行った。
「強い……!!」
一連のやり取りを目の前で見ていたシルトメモリーは目を剥いている。自分がどうにも出来なかった相手を1対1で対等に殴り合っているのだ。
驚き以外に無いだろう。間違いなく、今のパッシオは妖精という種族で最も強力な戦士として完成していた。
「シルト、下がって」
「で、ですが」
それらを見て私はシルトメモリーにもう一度下がるように言う。戸惑っているが次はマイナスな意味合いではない。
ぱちんっとウィンクをするとシルトメモリーも理解したようだ。「ご武運を」と一言残して、彼女は戦闘に参加しているメモリスターズの加勢に向かった。
メモリスターズは5人でワンチーム。1人欠けただけで負担は相当大きくなるだろう。特に防御担当のシルトメモリーをここに縛り付けておく理由は無くなったしね。
「……真白」
シルトメモリーを見送っていると、不意にパッシオから声がかかった。
顔をそっちに向けると対するパッシオはこちらに背を向けたまま、『獣の王』が吹き飛んで行った方向を見つめている。
しかし、それだけでは無いようだ。何か言いたげな雰囲気を感じ取った私は彼が二の句を継げるようにただ静かに待つことにする。
「こんな方法でしか、乗り越えられる方法がわからなかった。しかも東堂さんに『ビーストチェンジャー』を用意してもらってようやくだ」
「……」
ただただパッシオの独白に耳を傾ける。彼の中にはいまだに葛藤があるのだろう。結局、彼は『獣の力』を跳ね除けるのではなく、自分の力として取り込むことを選んだ。
きっと、それが彼の中では納得出来ていない。まるで喉に刺さった魚の小骨のように、絶妙な心残りになっている。
「情けない限りで君に申し訳が立たない。結局、僕はこんな力を使うしかなかった」
恐ろしいのだろう。敵と同じ力を使うというのは味方からなんて言われるかわからない。『獣の力』そのものを恨むような考え方の人がいれば、その人にとってパッシオは『獣の王』と変わらない敵だ。
「こんな汚れた力に頼るしかなかった。もし、もしだけど。それでも君がそんな僕を――」
その先は、言わせない。そんなことを言わせて堪るものですか。
私はただただ黙ってパッシオの隣を通り過ぎる。それを何と思ったのか、パッシオは肩を落とし諦めたような雰囲気を漂わせていたのだけど。
「なにしてるの?」
ホント、バカ。私がそんなことを気にすると思う? 『獣の力』が汚れた力? バカ言うんじゃないわよ。それを言ったらアズールとルビーはどうなるのよ。妖力を使うフェイツェイやグレースアも。
捉え方では異能力者であるノワールとルミナスメモリーだってそう言えてしまう。
でもね、そもそも『獣の力』が汚れてるなんて私はちっとも思わない。どんな力も、全ては使い方なのだから。
それを使って正義を貫くなら、私はそれを間違っているとは思わない。
「私の隣はパッシオしかいないの。今更いなくなられたら、私が困る」
「……はははは。君にはホント、敵わないね」
私の隣にパッシオが立つ。いつもの私達がそこにある。これからも絶対に変わらない。
「「行くよ!!」」
私の相棒はパッシオーネ・ノブル・グラナーデだけだ。それ以外、あり得ない!!




