エンドレスラグナロク
紅蓮の炎によって退けられた『獣の王』の尾はその表面を黒く炭化させながら、その形を元の戻していく。
『獣の王』の表情は憤怒といったところか。ビキビキと顔に不自然なまでに血管を浮き上がらせている様子は怒りと表現する以外にどうしようもないくらいだ。
「き、さまぁ……っ!! 主に逆らうか!!」
「誰がお前の従者になったんだよ。こっちから願い下げだね」
「パッシオ……」
私とシルトメモリーの間に挟まるように姿を現したのはパッシオ。私に仕える騎士で、私の大切な人。
『獣の王』によって、会うことが難しくなってしまった人。
私がこの戦いに命がけだった理由の半分くらいは、不健全だけどパッシオを取り戻すためだ。
あまりにも個人的過ぎて、とてもじゃないけど他人には言えない理由だけど、そのくらい大切で絶対に取り戻したい人。
そんな人が自分のピンチに駆けつけた。もしかしたらもう一生会えないのかも知れないとさえ思っていた人が駆けつけてくれた。
正直、嬉しくて涙が出そうになる。それを何とか堪えながら、彼の背の向こう側にいる『獣の王』に集中する。
全ては後回しだ。私個人の感情を今ここで見せて良いことは1つも無い。
「……」
パッシオも同じだろう。何か言いたそうな視線をこちらに一瞬だけ向けてから、『獣の王』へと視線を変える。
「まだ躾が足らんようだな。妖精という種族は所詮は獣と同じ」
「そうです。妖精では『獣の王』には……」
獣が心を得た種族が妖精。そのせいで妖精は『獣の王』と『獣の力』の影響を他の種族よりも受けやすい。
ほんの少し、『獣の王』が指示するだけで世界中で暴走してしまうくらいには影響を受けやすいのが妖精という種族なのだ。
だから、パッシオ達は私達から距離を取った。妖精という存在が『獣の王』に有利に働く以上、自分達は邪魔だと。
冷静で冷酷で誰よりも優しい決断は苦渋のそれだったハズ。それを自分から破るようなパッシオではないことは私がよく分かっている。
彼も良くも悪くも頑固なのだ。自分で決めたことを曲げない。決めた以上はやり通すのが彼という人だ。
それが、何故ここにいるのか。シルトメモリーの懸念もごもっとも。
「パッシオーネ。貴様が来たのはむしろ私にとっては好都合だ。もう一度私に屈服しろ!! 8本尾の『エヴァ――」
「黙れ」
大きな身振り手振りをして余裕を見せる『獣の王』の顔面にパッシオの拳が突き刺さった。
それによって面白いくらいに『獣の王』は吹き飛んで行く。
目測で10m近くは殴り飛ばされただろう。ただの人間だったら、アレだけでミンチだ。そんな力を以前のパッシオは持っていなかった。
分身体『ベンデ』から奪った2本の尾と与えられた『ビーストメモリー』を取り込んだ結果、彼の尾は増えて4本から8本にまでなっていた。
9本尾である『獣の王』に次いで二番目の尾の多さだ。妖精と『獣の王』では単純な比較にはならないだろうけど、それでも8本という尾の数は他の妖精や獣達とは一線を画すようだ。
「――あぁ、こんなものだったのか」
振り抜いた拳を握りしめたまま、彼はその拳を見つめて声を漏らす。後悔にも聞こえるし、ただの確認のようにも聞こえる。
あるいは、自分自身への呆れか。
「こんなものに、僕は負けたのか」
メラメラと足元から紅蓮の炎が湧きたつ。まるで、彼の怒りに呼応するかのように静かに。でも情熱的に。
「ふざけるなよ。こんなもの、効くはずがないだろ!!!!」
【Beast UP!!】
【『執着』!!】
手首に巻かれたデバイスから音声が響くと、その勢いはさらに増して行った。




