『獣の王』
【【Slot Absorber!!】】
【『獅子』!!】
【『鷹』!!】
二つの電子音が鳴り響いて、『獅子』と『鷹』のメモリーが私とフェイツェイにそれぞれに能力を与える。
私達の中ではもう当たり前のレベルにまで落とし込まれた『獅子』と『鷹』のメモリーから供給される魔力と能力が私達に更に強い炎と翼を与えて、目の前に放たれた魔法の隙間を縫うように進みながら、『獣の王』へと肉薄する。
剣が二本になったことで単純に手数の増えた私と、翼を得たことで立体的な軌道で攻撃できるようになった私達の攻撃は苛烈なうえに複雑だ。
それを目の前の『獣の王』は的確に捌いて行く。魔法もだけど、近距離の格闘戦が強い。今まで私達が見てきたショルシエやその分身体とは何かが違うのが嫌でも分かる。
「今まで手加減してた、ってわけじゃなさそうね」
「そうだな。お前たちが戦って来た個体のことを言っているならそうと言える」
今まで私達が戦って来たショルシエとその分身体達は主に魔法戦が得意で、近距離の格闘戦は苦手というか率先して近接戦闘はして来なかった。
主に使っていたのは尻尾による殴打や刺突で、魔法の中に混ぜ込んだり私達のような近接戦闘を主体とする魔法少女に対する牽制の役割が多かった。
つまり、サブウェポン。ショルシエや分身体の基本戦術は圧倒的な魔力量を用いた魔法戦であって、近接戦闘はおろか、格闘戦なんて最も避けているタイプの戦術だ。
だけど、目の前のコイツはむしろ率先して格闘戦を選んでいる。尻尾も使っていない。圧倒的な魔力量という最大にして最強のカードがサブ扱いだ。
この差はなんなのか。目の前の存在が『獣の王』そのものであるのはさっきの会話で分かった。
だからって言って、戦術レベルで差が出るのは何故か。ここに来てその違いを出されるのは不気味で仕方が無いわね。
「『器』って表現が言い得て妙なら、今は『器』の中身が全然無いってことじゃない?」
「どういうことだ?」
さっき、『獣の王』に対して『器』と表現したことを言い得て妙だと言われていたグレースアの発言が上手く理解出来なかった。
目の前の存在が『器』だとして、それの中身が全然無い? つまりどういう想定なのかがイマイチわからない。
フェイツェイも同じで視線は『獣の王』から逸らさずにどういう意図なのかを聞いていた。
「考えてもみなよ。いくら『獣の王』なんてバケモノとは言え、全く代償無しに同じ姿だったり、別の個体を作れるのがおかしいじゃん」
「良いセンだ。そこの猪突猛進な2人よりは頭がキレるようだな。如何にも、今の私は『獣の王』だが内包している『獣の力』や魔力はそれほど無い。もちろん、貴様らよりは遥かに多い力の総量だが」
確かにまぁ、私達三人の中で誰が頭脳面でマトモかと言われればグレースアだけど少し納得がいかない。
この三人は全員ゴリ押しタイプだ。私が火力、フェイツェイが技術、グレースアが物量でそれぞれ敵の防御を無理矢理突破して強烈な一撃をお見舞いする戦闘スタイルを好んでる。
やり方が少し違うだけで、全員強引な戦闘スタイルなのよね。そもそも戦闘って極まって行くとこういう極端なやり方になっていく物なんだけど。
「お前たちが相手にしていたのは予想の通り、全員偽物だ。だが、本体でもある」
「本体から力を分けた存在だから、とでも?」
「まさにその通りだ。我々は絶対的な1つの個体でしかない。どれだけ力を分けようと、意思や思考を分けようと、『獣の王』という個だ」
頭が痛くなってくるわね。こういう話はアメティアかアリウムがいる時にして欲しいもんだわ。
つまりなに? 『獣の王』はコピーを作ってるんじゃなくて、力の一部を切り分けて、増えているように見せかけているってわけ?
それに何の差があるのかがわからないんだけど?
「では分かりやすく教えてやろう。貴様らのやっていることは、全て徒労ということだ!!」
腕を振るい、両手の爪から魔力の刃を飛ばして来る。それを炎を纏わせた剣で斬りはらいながら、ペラペラと喋っている『獣の王』の話に耳を向ける。
なんだって悪役ってのは語りたがりなのかしらね。こっちとしてはありがたいんだけど。




