『獣の王』
「……子供?」
フェイツェイが口にした通り、私達の目の前に現れたのは子供だった。
ぱっと見の年齢は10歳くらいの女の子。これだけドンパチやってるのにって意味でも、王城の王族に無関係そうな子供だっていう点で見ても、ここに子供がいることが異様だ。
明らかに、何かがおかしい。私達は子供のような何かに対して最初から警戒度MAXの状態で対峙することになる。
「なぁんだ。全然油断してくれなくて、つまんなぁい」
「当たり前でしょ。こんなところに子供がいる訳ないでしょ」
「しかも、何にも感じないなんておかしいもん。貴女、何?」
何よりおかしいのは、目の前の子供に私達が何の気配も感じないこと。魔力も生気も、何も感じない。
目には映っている。耳に声は聞こえている。それなのに、そこにいる感覚がどこか無い。そんな不気味な存在に警戒を示さないわけが無いのよ。
私もフェイツェイもグレースアも全員がいつでも武器である魔法具に手をかけ、いつでも戦闘が始められるように構える。
「何、かぁ。簡単なようで難しいね。私も貴女たちも出会ったのは初めてだけど、お互いのことをよぉく知っているよ?」
「だったら」
「敵だな」
2人で同時に鞘から得物を抜き、振り抜く。剣と刀、それぞれの切っ先から炎と風が迸り、その子供へと襲い掛かる。
当たれば並の敵ならそれだけで一撃で仕留められるだけの威力を込めたそれを、見てくれだけは子供のその何かは笑いながら片手で止めて見せる。
案の定、あり得ないことが目の前で起きた。絶対にただの子供じゃない。私達の中でも特別攻撃力に優れた2人の魔法少女の攻撃を片手で止める子供がいてたまるか。
片手で私とフェイツェイの魔法を握りつぶした子供がもう片方の手を上げる。わかりやすい魔法発動の予備動作。身振り手振りをしなくたって魔法の発動は出来るけど、それを敢えて付けることで得られるメリットの方が大きいのは妖精界でも人間界でも変わらない常識だ。
「下がって!!」
後ろにいるグレースアの声に合わせて、飛び込むのではなく後退を選択。その直後に発生した氷魔法が魔法を発動しようとした子供をその周辺ごと凍り付かせた。
肌で感じる冷気を押し返すように手に持つ剣に炎をありったけ乗せる。同じようにフェイツェイは風を乗せて縦に振り下ろし、私は横に薙いで合わせて十字を切るようにして直接叩き斬りにかかる。
「見てた通りの攻撃力。とってもこわぁ~い」
それを受ける直前に自ら氷を割って現れた小さな手に剣も刀も直接掴まれて止められる。
小さな手に握られているとは思えない膂力で抑え込まれた攻撃。
このまま握られると魔法具ごと折られかねないことを察知して、敢えて剣から手を離し、右手を竜化。
炎を爪に乗せて、下から抉るように振り抜くと、剣と刀を手放して身体を後ろに反転させながら避けられた。
投げ捨てられた剣をキャッチして、再び構える私達。
ほんの数秒の中で起きた攻防で、この見た目が子供の何かが高い戦闘能力を持っていることを確認した私達は目の前にいるこれが何なのかにおおよその検討を付ける。
「アンタが『獣の王』の本体ってわけ?」
「子供の見た目は少しでも私達の油断を誘うため、か」
「半分正解、半分ハズレだ魔法少女。如何にも私が『獣の王』。こんな見た目なのは結果的にこうなった、が正しいな」
子供のようなわざとらしい口調を止めて、今まで通りの偉そうな声音と喋り方に変わった子供が、『獣の王』の本体。
人間界に封印されている『人滅獣忌 白面金毛の九尾』が『獣の王』の本体だという真広の推理はこの時点で外れたことになる。
けど、アレがコイツから分かれた存在である可能性は十分にある。ハズレだった場合は一報が入る予定だしね。
「『人滅獣忌』じゃなかったかあ。じゃああなたはそうだなぁ、『器』。とか?」
「言い得て妙だな、その表現は!!」
カマをかけて、目の前の存在が具体的に何なのかを探るグレースアに是とも言えるような答えを返しながら魔法が放たれる。
相変わらず、威力も範囲も馬鹿げたそれを大きく退いて回避しながら、『獅子』のメモリーをSlot Absorberへと叩きこんだ。




