友達
思わず目を瞑った。もうどうにもならないと悟った。でも、想像した痛みや不快感が来ない。
「はあああぁぁぁっ!!」
代わりに聞こえて来たのは気迫に溢れた声と、何かが私のそばで巻き付くような音。そして続けざまに叩きつけるような音が私の耳に届いた。
「諦めるなんてらしくないわよ、スバル」
目を開いた私に見えたのは鞭のような障壁を肩にかけているピリアの姿だった。
驚きのあまりに何が起こっているのか全く状況が把握出来ていない。分かっていることは何故かピリアが私の目の前にいるっていうことだけで、それすら本当のことかわからないくらい、私の思考はパニック状態だった。
「貴女、この期に及んで……!!」
「リリアナ待って!!」
ピリアを敵だと認識しているリリアナはそのままピリアに食って掛かろうとするけど、それをなんとか引き留める。
今のピリアは敵じゃない。なんでとかどうやってとか、そういうのは何も分からないけど私がミルディース王国を出立する少し前、ブローディア城の人目につかない部屋でピリアとちゃんと話をして、彼女が改心していることを私はちゃんと知っている。
ピリアは私の大事な友達だ。それは私の思い違いじゃなければ、ピリアにとっても同じだと思ってる。
事実としてピリアは手に持っている鞭状の障壁魔法を使って私達に手を伸ばしていたショルシエを絡めとって投げ飛ばした様子だった。
「……貴様ぁ、まさか生きていたとはな」
「私、悪運は強いのよ。知らなかった?」
完全に油断していただろうショルシエが投げ飛ばされた先で苛立った様子で立ち上がる。用済みになって殺したと思った使い捨ての駒扱いの存在が生きていた挙句、自分に歯向かっただなんて、ショルシエにとっては屈辱的だよね。
その目には明らかに怒りの念が籠っているのがここから見ても分かる。
これで不意打ちはこれ以上効かない。でも最悪は避けることが出来たのはホッと出来る要素だった。
あのままだったら私とリリアナは持っている能力を全て奪われていたハズだからね。
「どういうことなのかを説明してください」
「悪いけど、説明している時間が無いのは明白よ」
突然現れて、味方みたいな振る舞いをするピリアにリリアナは詰め寄る。当然と言えば当然だ。
リリアナの故郷であるエルフの里もリベルタさんの故郷のトゥランという交易都市もピリアの策略によって滅茶苦茶にされている。
一緒に戦うには心理的障壁っていうのが大きいと思う。リリアナにとって、ピリアはどんなに改心しても敵だから。
それはピリアもよく分かっているはず。私達、メモリスターズとピリアは一緒には戦えない。
「貴女たちに酷いことをしたことは、その罪は必ず償う。私はそれから絶対に逃げない」
「……なんで、貴女がスバルを守るんですか?」
私はそう思っていた。私の仲間と私の友達の間にある溝は、あまりにも深すぎる。リリアナはピリアの話を聞いてくれるけど、リベルタさんなんかは話も聞かずに殴りかかっていると思う。
そのくらい隔絶している。それが私の認識。
「大事な友達だから。それ以上の理由は無いわ」
「……わかりました。スバルの友人だというのなら、信じます」
でも、私のそんな予想に反して、リリアナはピリアを受け入れた。許した、というよりは割り切ったというか、自分の感情だけで物事を決めるのを飲み込んだ、って感じだった。
大人な対応、だよね。この状況を切り抜けるためには敵でも利用するって判断だから。
「ありがとう」
「許したわけではありませんからね。スバル、後で一通り説明してもらいますよ」
「あ、ハイ」
しかもなんか私が何をしようとしていたのか、バレたっぽい。今のやり取りで察するなんてリリアナの勘、良すぎだよ。
あーあ、揉め事にならないように、2人には黙ってピリアと旅に出るつもりだったんだけどな。
「辞世の句は読み終わったか? 小娘ども」
「わざわざ待ってるなんて、律儀ね」
「同感です」
私達の話が終わるまでショルシエは待ってたわけじゃないけどね。あっちは準備万端って感じだよ。




