友達
「4に与えていた『憤怒』が進化した『強奪』の権能だが、アレはこの能力を活かす前にシャイニールビーに殺されてな。全く、せっかく1と2を喰って6まで行ったというのにもったいない奴だ」
まぁ、アレには最初から期待していなかったがな、と笑うショルシエ。ってことは1、2、4、6、7の分身体は確定で倒されたってことになる。
もう殆ど残っていないに等しい。残っているのは3、5、8。5本尾はベンデって言う分身体だったハズ。
同時にそれはそれだけの数の『権能』がショルシエの下に戻って来ている証拠でもある。
「ようやく状況を理解して来たようだな。そう、貴様らは既に詰みなのさ。愚かなお前達は分身体を倒せば倒すほど、私に力が戻って行くことにまるで気が付いていない。貴様らの勝ち筋など、最初から無いんだよ!!」
握りつぶすような動作一つで、『樹々怪界』が完全に消える。壊されたんじゃない、まるで最初から発動していなかったかのように消えたのだ。
それどころか、目の前で盾を構えていたシルトの変身すら解除されている。
突然の出来事にシルトは何が起こっているのか分かっていない様子で、固まってしまっている。分かりやすすぎる隙をショルシエが逃してくれる訳も無い。
「……ッ!!!!」
「きゃあっ?!」
殆どタックルみたいな感じでシルトメモリーとしての変身が解けてしまったリリアナを地面に押し倒して、ショルシエの攻撃を避ける。余波で吹っ飛ばされるけど、直撃するよりは遥かにマシだ。
魔法どころか変身ごと強制的に解除された。これも『権能』だ。少なくとも魔法じゃない。
だとするなら、強力なアンチマジック能力。魔法や魔力そのものを拒絶する能力だとしたら、そんなの私達に勝ち目が無い。
「ごめん、ちょっとで良いから力を貸してね!!」
【『希望』!! 未来を導くしるべとなれ!!】
「『思い出チェンジ』!!」
だからって言って諦めるわけにもいかない。リュミーの魂が入っている『光』のメモリーじゃなくて、真白さんから託された『希望』のメモリーで変身する。
本来、『思い出チェンジャー』は変身に使用するメモリーとの縁が物凄く重要視されていて、その辺で手に入れたメモリーじゃ変身できない。
私は『光』、リベルタさんは『兄弟』、リリアナは『守護者』だ。
スタン君だけかなり強引と言うか、ズルくてで妖精界の王族の彼にとって国民全員と縁があるようなものらしいから妖精界の住人なら大体誰でもいいらしい。
緩いんだか厳しいんだかわからない基準で、どうなってんのさと文句は言いたいんだけどとにかく普通は上手くいかないそれを『希望』のメモリーに頼み込んで強制的に変身に成功した。
「希望の道を歩き記す!! 『デザートメモリー』!!」
砂属性の『希望』のメモリー。土壇場の変身でこの属性単体でなにが出来るかなんて考えてもいなかった。
それでも身体能力が上がっただけでやれることはある。ようは全力で逃げるってこと。
出来る限り砂を巻き上げて姿を隠す。それをもすぐに消されてしまうけど、一瞬でも視界を隠せるし、魔法を消すっていうワンテンポ遅れるのが必要なのはこれでわかった。
魔法の発動を無効化するものじゃなくて、著しく魔法の効果を下げる能力だ。
どっちにしたって、そんな『権能』を使われたら私達ではどうにも出来ないのは変わらない。だからこその逃げの一手なんだけど。
「何処を見ている?」
逃げるために一歩踏み出したその先に、ショルシエの姿があった。分身? いや、それにしては早すぎる。
ショルシエの分身には幾つか条件があるハズ。ルール無用でいつでもどこでもショルシエ本人の分身を作れるなら最初からそうしてる。
だったら、私達は別の何かを見せられていた。魔法の発動として察知できないんだったらそれはやっぱり『権能』だ。
「さぁ、喰わせてもらうぞ。お前の『能力』」
右手に禍々しい何かを携えて、私の顔面に手を伸ばして来るショルシエを私は見ている事しか出来なかった。
脳裏に浮かぶのは走馬灯ってやつなのか、色んなことが浮かんでは消えていく。最期に見えたのはミルディース王国にいる不器用な友達の姿。
ごめんね、ピリア。約束、守れそうにないや。




