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アリスとお兄ちゃんとシリーズ  作者: ピシコ
アリスとお兄ちゃんと文化祭症候群
39/41

16.エイジレス・スマイル

夕闇に沈む校舎を背に、私と真衣、そして渡辺さんの三人は、校門の前に立っていた。

鼻先に、ポタッっと雫が落ちた。

雨が降り始めたんだ。

「ね、ねぇアリスちゃん……本当に……本当にいいのぉ?」

渡辺さんは、申し訳なさそうに言った。

渡辺さんは、白いドレスと裁縫道具を抱えている。

「もう、何度も言ってるでしょ? 着たこともない服だからって。私は、ちゃんとそのドレスに生地が合うのかが心配よ……って、あの車うちのだわ!」

青色の軽自動車が校門前の道路に停まる。

「さ、乗って二人とも」

私は、後部座席のドアを開けながら二人に言う。

「お邪魔しまーす」

「お、おねがいしまぁす」

私は助手席に座る。

「あらあら、うちの娘がいつもお世話になっております」

お母さんが、いつもより1オクターブ高い声で言った。

「はい。いつもお世話してますわ」

「ちょっと! どういう意味よ!」

「言葉通りですわ」

真衣がオホホホホって聞いたこともない笑い方をした。

「あなたが真衣ちゃんね? いつもアリスちゃんから話は聞いてるわ。本当に美人さんなのねぇ~。アリスちゃんと同い年には見えないわ」

「残念ですが、同い年ですわ」

「最近の子は成長が早いのねぇ……それであなたは、渡辺さんね? あなたも良くアリスちゃんの話題に出るわ~」

渡辺さんは、少しだけ気まずそうに微笑を浮かべる。

「それじゃあまずは、どちらのお家に行けばいいのかな?」

「ううん。お母さん、まずはうちに行くの」

「どうして?」

「えっと……簡単に言うと、渡辺さんが作ったドレスが汚れちゃったから、その代わりの布が必要なの」

「うん」

「それで……お父さんに買って貰ったドレスをね……使おうと思って」

「ドレスって、あのドレス?」

「……うん」

「あなた、まだ一度も着てないのに?」

「私には……まだ大きいから。あのドレスは。それだったら友達のために使いたいの」

「……ごめんね、ちょっと見せて」

お母さんは、振りむいて、渡辺さんのドレスを手に取った。

じっとそれを見つめた後、

「お父さんに、ちゃんと言うのよ」

と言った。

「……うん。ありがと……お母さん」

車の窓に、雨音が響く。どうやら本降りになってきたみたい。

「さて、早く家に行きましょうか。押し入れから引っ張り出さないといけないからね」

アクセルを踏み込んで、車が走り出す。

私は、雨粒が流れ落ちていく窓を見ながら、あの時の事を思い出していた。



幼いころの私は、甘えん坊だった。いや、今もそうなのかもしれないけど、気に入らないことがあると、泣いてべそをかく子供だった。

そんな私に対して、お父さんはいつも優しかった。

私は、お父さんに怒られた記憶がない。

思い出のお父さんはいつも笑顔だ。

あの時もそうだった。

家族四人で買い物に出かけた時、お店にあった、真っ白なパーティドレス。

私はこのドレスが欲しかった。

童話のお姫様が着ているようなドレスが欲しかった。

だからお父さんに言った。優しいお父さんに言ったの。

「あれがほしい」

って。

どう考えても当時の私、いや、今の私でも大きいサイズのこのドレスを私はねだった。

子供の戯言よね。

お母さんが、大きくなったらね、って言うけど、私はいつものように駄々をこねた。

この時の私は、好きなお菓子よりも、テディベアよりも、このドレスが欲しかったから。

しばらく泣き続けていると、肩を優しく叩かれた。

そこには、ドレスを手に持ったお父さんがいた。

お父さんは、

「アリスが大きくなった時に、この服が売り切れてたら、また泣いてしまうから」

と言った。

「だから早く大きくなって、ドレス姿を見せてくれ。アリス」

お父さんはいつも笑顔だった。



「アリスちゃん……本当にいいのね?」

「もう、何度も言わせないでよ。良いってば」

私の家に着いた後、押し入れの中から、段ボールに仕舞われていたドレスをなんとか見つけたの。

ドレスは綺麗なままだったわ(着たことないんだから当たり前ね)。

偶然にも、渡辺さんのドレスと、お父さんに買ってもらったドレスは似たような生地だったから、なんとか代わりに使えるみたい。

「本当に……ありがとうアリスちゃぁん……」

渡辺さんは涙ぐんでいる。

「ちょっと、泣くのはまだ早いわよ。明日までに修繕しなきゃなんだから、時間がないわ」

「そ、そうだねぇ。頑張らないと」

「言っておくけど、私とアリスは裁縫ド下手だから、応援しかできないわ」

真衣は、自信満々に言う。

「……う、うん。それだけでもうれしいよぉ?」

「大丈夫よ。なべ子ちゃん。アリスちゃんの代わりに、おばさんが手伝うからね」

お母さんは、いつの間にか裁縫セットを用意していた(あとなべ子って呼んでるわ)。

「それじゃあなべ子ちゃん、あっちの和室で作業しましょう」

「はい」

なんだかお母さん楽しそう……。久々に若いこと話せて楽しいのかな。

「なんとかなりそうね」

真衣は、大きくため息をついた。

「お茶でも飲む?」

「そうね……でもその前にアリス。あなたお父様に挨拶しなくていいの?」

「……そうだね。ちょっと待ってて」

「はーい」

真衣はそう言って微笑んだ。



仏壇に飾られた写真は、今も昔も同じ笑顔だ。

「ねぇ、お父さん。お父さんが買ってくれたあのドレス、私着れなかった。ごめんね」

ぽつぽつと、意識に関係なく、口から言葉が出てくる。

「でも友達のためなの。そう言ったらお父さんは許してくれるかな……それよりも、私が、お父さんとの思い出を忘れてたことに怒るかな。でもお父さんの怒ってるところ、見たことないの」

お父さん……。

「……真衣?」

気配に気づいて振り向くと、真衣が立っていた。

「喉渇いちゃった」

「……勝手に飲めばいいのに」

「人様の家で、そんなことできないわ。ねぇ、キリスト教も仏壇を飾るの?」

「うちは仏教よ」

「そうなの?」

「お父さんは、郷に入っては郷に従えって言葉をよく言ってたわ。それに仏壇って仏教以外で使わないでしょ」

「それもそうね」

真衣は、仏壇の前で静かに手を合わせてくれた。

「一つ聞きたいことがあるの」

「何よ?」

「あなたの持ってたドレスと、なべ子のドレスの生地が似ている事をアリスは知ってたの?」

「ううん。全然。偶然よ」

私がそう言うと、真衣は苦笑した。

「もしかして、直感?」

「そんな感じ」

真衣は吹き出した。そんなに面白いかな……。

「アリスの直感に感謝ね……」

「ねぇ、真衣、私も聞きたいことがあるの」

「何?」

「どうして、あんなに怒ったの?」

「……」

気になる。真衣があんなに怒ってるところ見たことなかったから。

「アリス、私はね、あなたのこと本当に好きよ」

「えっ、なによいきなり……」

真衣の宇宙の様に黒い瞳が、しっかりと私を睨みつけている。

「友達としてね、本当に好き。私って性格悪いから、あまり友達出来ないし」

よく分かってるじゃない。自分の事。

「だから、出来た友達に、すっごく依存するの。だからねアリス。私はきっと、この先死ぬまであなたのことを忘れることはないわ」

「う、うん……それはどうも……」

「……」

「……」

「ねぇ、冷蔵庫にお茶入ってる?」

「え、多分入ってるけど」

「貰うわね」

そう言って、真衣はキッチンへと向かって行ってしまった。

どういう意味で言ったの……真衣……?

つづきます

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