14 文化祭一日目
年明けちゃった
「よーし! それじゃあ一日頑張っていこう!」
「おー!」
亮太の掛け声に私たちの声が呼応する。
時刻は9時とちょっと過ぎ、ついに文化祭が始まった。
私の今日のスケジュールなんだけど、9時から11時まで、お化け屋敷の受付担当。
そこから14時まで自由時間。14時からは真衣と一緒にマジックショーに出る。マジックショーの時間は30分よ。
文化祭は17時までだから、出し物を見る時間は意外とないのかも。
何て言っても、うちの文化祭は見るところが多すぎるのよね。
ちなみに、出版委員会が制作した、文化祭徹底解析本(一冊50円)によると、毎年混雑するのは、【絶対に叶う恋占いを見つけるまで卒業できない会】の恋占いは毎年長い列が作れるほどの大盛況らしい。
恋占いか……。
私は横目で、何か話し合っている亮太と夏美を見る。
今は、私自身の恋よりも、亮太と夏美の方が気になるけどね……。
そんなことを考えていると、男子生徒二人が近づいてきた。
「ここ、お化け屋敷?」
「あ、ひゃ、ひゃい! そうです!」
緊張して声が上ずってしまった……恥ずかしい。
「結構気合い入ってるじゃん」
「それな。ねぇ、どこから入ればいいの?」
「あ、このドアから……それと、懐中電灯をどうぞ」
私は二人に懐中電灯を渡す。
「懐中電灯だって。超本格的じゃね?」
「分かる。超楽しみになってきた」
男子生徒二人は、そのままお化け屋敷へと入っていく。
そして数十秒後、
「うわああああああ!」
「ぎゃああああああ!」
二人の悲鳴が聞こえてきた。
それから、何度かの悲鳴の後、二人の男子生徒がお化け屋敷から出てきた。
出口でスタンバイしてた真衣が、二人から懐中電灯を受け取って、こっちに渡してきた。
「今の二人、げっそりした顔をしてたわね」
真衣は、笑顔で亮太に言った。
「……やった」
亮太は両手を高く上げて
「やったぜ! 俺たちの作ったお化け屋敷は怖い! 証明完了だ!」
亮太は、お化け屋敷のドアを開けて
「お前ら! 今の感じで頼むぜ! どんどんビビらせて、学年最優秀賞を手に入れるんだ!」
「うおおお!」
お化けにしては元気な声だった。
「ねぇ、夏美。学年最優秀賞ってなに?」
「え? アリスちゃん知らないの?」
え、初めて聞いたけど……。
「文化祭が終わった後、どの団体の出し物が良かったか、全校生徒にアンケートを取って、学年毎の順位、全体の順位が発表されるのよ」
「そんなのあったんだ」
「ちなみに、部活毎の順位も発表されるのよ」
真衣が、少し呆れた様子で言った。
「じゃあ、真衣も順位狙ってるの?」
「いいえ。別に狙ってないわ。私の目的は、お客さんを笑顔にさせるマジックショーだからね。それと……」
「それと?」
「……まぁ、もし入賞出来たら嬉しいけど、多分軽音とか、吹奏楽部とかの発表の方が人気だろうし。アリスもそんなに意識しなくていいわ」
「うん。真衣がそう言うなら、それでいいけど……」
そもそも私は、裏方だしね……。
「言っておくが、うちのクラスはガチで学年最優秀賞を狙っていくからな」
亮太が、顔をズイと近寄せて言ってきた。
「全団体での最優秀賞は難しくても、せめて一年生の中の優秀賞は取りたいんだ。いや、取るんだ」
亮太の背景に燃え上がる炎が見える。
「きっと取れるよ。だって頑張って完成させたんだから」
夏美は、優しく亮太に言う。
「あぁ……そうだよな」
亮太は、少し赤面しながら返事をする。
……なんだかもどかしいわこの雰囲気!
誰でもいいからお客さんどんどん来なさいよ!
気まずいったらありゃしないわ!
「疲れた……」
いや、本当にどんどんお客さん来たのよ……。
懐中電灯を二個しか用意してなかったせいで、回転数が悪くなってしまって、かなり長い列ができてしまったのよ。
待ってる間、知らない先輩にめちゃくちゃ話しかけられるし、大変だったわ……。なんかじろじろ見てくる人もいるし……。クラスのみんなはもう慣れているのかもしれないけど、やっぱり金髪碧眼の私の見た目は人目を惹くのよね。
それは許せるけど、見世物のように見られるのはごめんよ。まったく……。
「なんか、お腹空いてきたわね」
「お昼、何食べる? 私、これ行ってみたいわ」
一緒に文化祭を回ってる真衣が、 文化祭徹底解析本を取り出して、料理研究会のところを指差す。
「これ見てよ。一日動けるパンとか売ってるんだって」
「数量限定アジの開き定食ってあるけど、本当に作ってくれるんでしょうね……」
「気になるなら、行ってみない?」
「そうね。気にならない部分がないからね」
私たちは、料理研究会がお店を開いている第二家庭科室へと向かうことにした。
その途中、
「あれ? 見てよ真衣」
階段の踊り場に張られた一枚のぺら紙を私は指差す。
「これ、もしかしてお兄様のクラスのクイズラリー?」
「そうみたい。問題が書かれてるわ」
そこには、こう書いてあった。
人差し指一つで表現できるアルファベットはCとIともう一つは何?
「……」
「……アリスは分かった?」
「分かんない……」
私は人差し指をじっと見つめる。
ちょっと曲げればCに。ピンと伸ばせばIに。これは分かる。あともう一つってどういうこと……?
「う~ん……まぁいいわ! まずは腹ごしらえに行きましょ!」
「ふふっ、アリスって意外と食い意地張るわよね」
「うるさいわね。私は朝から何も食べてないのよ」
「お寝坊したからでしょ?」
「……はい」
返す言葉もありません……。
料理研究会の出し物、【D食堂】はかなりにぎわっていた。
すでに廊下には、かなりの列ができていて、並ぶのをためらったけど、甘ったるい匂いにやられて、私と真衣は並ぶことにした。
ちなみに、D食堂の隣、普通の家庭科室も、渡辺さんがいる家庭科部が、制作物の展示と、衣装の試着ができる、【白うさぎのお部屋】をやっていて、こっちもすごい列だった(ちなみに並んでる人はカップルが多かった)。
あとで覗いてみようと思う。
数十分並んだのち、私と真衣は中に通された。
第二家庭科室内は、普段の無機質な教室とは思えないほど、綺麗な内装だった。
席に座ると、ウェイトレス姿の女子生徒がメニューを出してきた。
「お勧めは、一日動けるパンです」
「アジの開き定食は?」
真衣が尋ねるとウェイトレスさんはにっこり笑って
「売り切れです」
と言った。
「それじゃあこの一日動けるパンを二つ、それと私はコーヒー。アリスは?」
「オレンジジュース」
「それでお願いします」
「かしこまりました」
ウェイトレスさんは軽くお辞儀をして、教室の奥へと消えていく。
「ねぇ、D食堂のDってなんのDなんだろ」
私はふとした疑問を真衣にぶつけた
「dieのDじゃない」
「死んでるわよ」
「死ぬほど美味しいって意味よきっと」
「本当に?」
「多分、deliciousのDだと思うけど」
「あ……多分それね」
そんなくだらない話をしていると、ウェイトレスさんがなんだか真っ白なパンを持ってきた。
「お待たせしました。一日動けるパンです」
「これは……」
出てきたのは、真っ白なパンだった。
大きさは手のひらサイズなんだけど、明らかに甘そうだ。
「中にはクリームもはいっております」
言われるままにパンをちぎってみると、中から甘い匂いと共にチョコクリームが出てきた。
美味しそうだ。本当に美味しそうだけど、体には絶対悪いと分かる。
「ねぇ、ウェイトレスさん、ちなみになんだけど、D食堂のDって」
真衣が恐る恐る聞く
「デブのDですわ」
ウェイトレスさんは笑顔で言った。
一日動けるって、もしかして、カロリー的な意味で……?
とってもお腹にずっしり来るパンをなんとか食べ終えた私たちは、そのまま家庭科部の様子を見ようと思ったけど、凄い列だったのでまた明日見ることにした。
その後も、私たちは色んな出し物を見て回った。
文化祭徹底解析本のオススメはどこも混雑してたので、結局は、目についた面白そうなものにどんどん入っていったんだけど、それでも楽しめた。
科学部の未来予想図発表会では、近い未来、人類は超情報化社会になって、肉体を通じたコミュニケーションは捨てて、仮想空間で生活を始めるらしい。
パソコンをあまり使わない私は、ちんぷんかんぷんだったけど、遠い所に住んでる人とすぐに会えるのは良いわよね。
二年生のクラスでは、箸で、豆を何個運べるか大会を開催していた(多分このクラスは、文化祭に対してあんまりやる気がなかったんだと思う)。
なんでもこのクラスには、箸での豆運びが異常にうまい人がいるらしくて、その人に勝てたら、大豆500gが貰えるらしい。
別に要らないけど、一応挑戦してみたの。
私も真衣も一分間で10個前後だったのに、その異常に上手い人は50個近く運んでいた。
毎日豆を運ぶ練習とかしてるのかもしれないわね。すごいけど、なんだか素直に称えれないわ。
校庭では、運動部の出し物がたくさんやっていた。
野球部の、リアルストライクアウトがやっていた。
野球部の人が投げる球を5球中、一回でも当てれば、景品がもらえるんだけど、初めて金属バットを握った私は、振るのに精いっぱいで、かすりもしなかった(あと、勢い余ってしりもちをついた)。ちなみに真衣は二球当てていた。何なのこの女。
ラグビー部では、ラグビーボールを蹴って飛距離を争うコンテストを開催してた。
私はまず浮かすことすらできなかったので、5メートルも飛ばなかった。
真衣は10メートル以上飛ばしていた。何なのこの女。
体育館では、合唱部の歌声が響いていた。
中学校までは、音楽の授業で合唱をすることもあったけど、高校に入ってからは、音楽は選択科目で選ばなかったから、歌うこともなかったけど、本当に上手い合唱を聞くと、なんだか自分も歌いたくなるわよね。
「ねぇ、本当に合唱同好会って今年に出来たばっかりなの?」
ステージ裏で、ショーの打ち合わせを確認しながら、私は真衣に尋ねる。
「らしいわよ。なんでも、中学のころ、合唱部だった人たちが集まって、出来たんだって」
「へぇ~。でもそんなに合唱がしたいなら、なんで合唱部がある高校を選ばなかったんだろ?」
「さぁ? なんででしょうね。さてと、そろそろ時間ね」
真衣は手を握り占めた。
そう、体育館のステージ発表は、合唱同好会の次は、我ら手品部のマジックショーの番だ。
「ねぇ真衣、あんた緊張してる?」
真衣の顔はいつもとちょっとだけ違って見えた。
「……そう見える?」
「少しだけね」
「本当に? 緊張なんて全然してないんだけどなぁ」
真衣は、そう言って笑顔を作る。
「もうすぐ出番か」
不意に後ろから低い声が聞こえてきた。
「先生」
声の主は、浦頭先生だった。
「緊張してるか?」
「いいえ」
「ふふっ、それはよくないな。適度な緊張は持った方が優れたパフォーマンスが出来るというのに」
「そうなんですか?」
「俺の人生経験上な。でもまぁ、今日は見てくれる人も、ほとんど学生で、その数も50程度だ。まずは慣れて、明日失敗しないようにするべきだな」
「私は、失敗しませんよ」
「そうかい。なら安心して見守れるな」
浦頭先生は、真衣の頭をポンと軽く叩くと、そのまま背を向けて客席へと戻っていった。
……なんとなくね? なんとなくだけど、浦頭先生は、真衣に対してとてもやさしいと思うの。
普段は、嫌味っぽい話し方なのに、真衣と話しているときは、どこかお父さんみたいな感じがするの。
客席の方から、大きな拍手が聞こえてくる。合唱部のステージが終わったんだ。
「さぁ、頑張ろうかな。ねぇ? アリス」
いつもの顔の真衣が、そこにはいた。
「うん。頑張って。真衣」
真衣は、擬音が鳴りそうなほど、綺麗なウィンクを決めた。
まかせて! そんなフキダシが浮かんでくるようだった。
文化祭って結構長いんだなぁって思いながら書いています。次回更新は多分早いです(当社比調べ)




