11 文化祭準備日その4
もうすっかり冬ですね。作中はまだ秋らしくてびっくりしました
時刻は午後6時を過ぎたころ。
綺麗な夕焼けが、薄暗い教室を照らし出す。
今私がいる1ー8の教室には、私以外誰もいない。
ついさっき、蝉郎さんが持ってきてくれた段ボールを運び出して、今日の作業は終了になったの。
うちの学校は、文化祭期間は午後6時までっていう決まりがあるからね。
じゃあなんで私は教室にいるのかと言うと……。
ガララッと勢いよくドアが開いた。
「悪いな。呼び出しちまって」
「本当よ」
亮太の奴に呼び出されたから。今度はなんの報告会かしらね……。
「夏美に告白した時も、こんな夕日だった気がする」
亮太は突然センチなことを言い出した。
「……蝉郎さん、やっぱり警察の人だったよ」
「そうだったんだ……じゃあなんで蝉郎さんは夏美にそのことを黙ってたの?」
亮太は蝉郎さんと夏美の過去について話してくれた。
夏美のお母さんが殉職したこと。
お母さんを守れなかったお父さんと警察が許せないこと。
そんな夏美を見て、蝉郎さんは面倒を見てあげたこと。
「……」
随分重い話を聞かされてしまったわね……。
「事実は小説よりも奇なりって言葉、今なら使っていいよな?」
「むしろ、今使わないで、いつ使うのって感じね」
「違いねぇ」
「それにしても蝉郎さんは……夏美のお母さんのこと、本当に、本当に好きだったんだね」
「……お前もそう思うか」
「源氏物語って知ってる?」
「……あー、お前の言いたいこと分かったぜ」
「光源氏計画ってやつよね。多分」
蝉郎さんは、光源氏ほどイケメンではないけれど……
「蝉郎さんのこと、嫌いになったか?」
嫌い……
「嫌いにはならないけど……蝉郎さんは、結局夏美の中に夏美のお母さんを見ていただけなんじゃないかなって思う」
源氏物語を読んだ時も思ったのよね。
「蝉郎さんが本当に欲しかったのは夏美じゃなくて夏美のお母さんだと思うの。それって、夏美に失礼……じゃない? 悪気はなかったとしても、騙していたのは確かなんだもん」
「なるほどな。夏美の気持ちを考えればそう思うな。でも、俺は蝉郎さんを責めることはなんだか、できないんだよ」
亮太は、拳をぎゅっと握る。
「手に入らなかったものが届く距離にあったら、それを掴まない人はきっといない。そして、それを手放すことなんてなおさら出来ないよ」
……分からない。私たちには、何が正しくて、何が間違いなのか。
答えなんて出せるわけもない。
だって、私たちはまだ高校一年生の子供なんだよ。
恋も知らない私に、何が言えるのよ。
「……それで? 報告をするためだけに、私を呼んだの?」
「いや、一つ相談したいことがあって」
相談?
「夏美に……このことをいつ打ち明けようかと思って」
「……やだ」
「え?」
「そんな重大なこと、私に相談しないでよ!」
「いや、それは……その通りだと思う」
亮太は俯く。
「……せめて、今の俺の考えを聞いてくれないか」
「聞くだけで、耳から耳へと通り抜けるわよ」
「それでいい……俺は今、自分の告白よりも、夏美のこと……お父さんとのわだかまり、蝉郎さんのこと、警察のことをなんとかしたいと思ってる」
亮太の眼は真剣だ。
「でも、まずは文化祭を成功させたい気持ちもある。俺は、夏美の前で格好つけるためだけに文化祭を成功させたいんだ。それにクラスのみんな、特にアリス。お前たちを巻き込んじゃってる」
「そんなこと、みんな好きでやってるよ」
「それならなおさら、失敗は出来ない。まだ準備は終わってない。明日には終わるはずだけど、それには、夏美の存在が必要不可欠だ。女子たちの指示だしは夏美に頼んでるからな」
「つまりどういうことなの?」
「夏美には、文化祭が終わってから、色々打ち明けようと思うんだ。だって、今すぐに夏美にこのことを話したら、あいつ……きっと色々辛い」
「……告白はどうするの?」
「その後でいいさ」
「その後っていつ?」
「いつかさ。まだ俺たち高校一年生だぜ? まだ二年もあるんだ。今焦ったってしょうがないぜ」
「……あんたがそう言うなら、私は何も言わない」
「……そうか」
「でも、あんた本当に夏美と夏美のお父さんとのわだかまりを何とか出来るの?」
「それは、夏美次第なんだけど、きっと夏美だって本当は……アリス?」
この時私は、どんな顔をしていたんだろう。
驚いた顔かな……多分そうだと思う。
だって、本当に驚いちゃったの。
「夏美……」
夏美が、亮太の後ろに現れたから。
「なっ……」
「ごめんね二人とも……。下駄箱に二人の靴があったから、何か作業が残ってると思って、教室に来ちゃったんだ……」
夏美は、泣き出しそうな顔をしていた。
「いつから……」
「……ほとんど聞いちゃった」
夏美の瞳から涙がこぼれる。
「どうしてずっと聞いてたんだろう……ねぇ、なんでだと思う? 教えてよ亮太君」
私は、この場から今すぐに逃げたかった。
心臓がキリキリと音を立てて縮こまっていくようだった。
「本当に、今の話は本当なの? だったら私は……どうすればいいの?」
「夏美……俺は……」
「……ごめん」
夏美はそう言って、私たちの前から走り去っていく。
「……くっ」
亮太は、その後を追って出ていった。
放心状態(あと、ちょっとおしっこ漏れそう)な私は、その場から動けなかったけど、数分後、亮太
が教室に戻ってきた。
「あーその……なんだ」
「夏美に追いつけなかったの?」
「まぁ、あいつの方が足が速いしな」
「ダサ」
「激ダサだな……でも一声かけてきた」
「なんて?」
「また明日も学校こいよって」
亮太は笑顔で言った。
「……来ると良いね」
来るよね……夏美……。
明日も投稿したいんですけど、どうなるんでしょうか。
一週間前に足を捻挫してずっと足を引きずりながら歩いていたので、治って来たのに、足を引きずってしまう癖がついてしまいました。




