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アリスとお兄ちゃんとシリーズ  作者: ピシコ
アリスとお兄ちゃんと文化祭症候群
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33/41

10 文化祭準備日その3

沈黙はしばらく続いた。

僕は何も言えなかった。

僕はただ、真実が明らかになることで、良い方向に物事は進んでいくの思っていた。


だって、推理小説では、探偵が事件を解決し、謎を明らかにすることで物語はハッピーエンドになるじゃないか。

でも、それは空想の話なのかもしれない。

俯いた蝉郎さんを見て僕は想像した。真実を知った夏美がどんな顔をするのか。

この真実を打ち明けて、誰が幸せになるんだろう。

僕は、後悔の念で押しつぶされそうだった。

「君は……」

沈黙を破って蝉郎さんは問いかけてきた。

「夏美ちゃんが好きなんだろう?」

「……はい」

今の質問は確認のための質問なんだろうな。

「でも、一度振られている」

「……どうしてそれを」

「夏美ちゃん本人から聞いたんだ」

「そう……なんですね」

「それでもまだ君は、夏美ちゃんが好きなんだろう? また振られるのが怖くないのかい?」

……怖くないわけがない。

「……怖いです」

「君たちは今でも十分仲良しだろう? それで十分じゃないのかい?」

「……」

蝉郎さんは……夏美に自分の正体を明かしたくないんだ……。

蝉郎さんは、俺と一緒で、夏美と今の関係が崩れることが怖いんだ。

「俺は……」

「……ねぇ、亮太君。かつて僕は、今の君のように関係がこじれるのを嫌って、好きな人との関係を深めることができなかった」

かつて……? 今の蝉郎さんは違うって言うのか?

「僕の好きな人には既に思い人がいた。そしてその思い人は僕の親友だった。漫画みたいな話だよね」

そう言って蝉郎さんは笑うけど、全く楽しそうには見えなかった。

「僕は、自分の好きな人とも親友ともずっと友好な関係を保っていた。彼女を独り占めしたいと何度も思ったけど、僕は、好きな人と同じくらい、あの三人で過ごす時間が好きだったから、本当にずっと……そう、彼女が死ぬまで僕達は同じ関係だった」

蝉郎さんが言う彼女って言うのはもしかして……。

「いやぁ、長々と一人で話してごめんね。僕が君に伝えたいことはただ一つ」

蝉郎さんが人差し指を伸びる。

「やらなかった後悔は一生続く」

「……」

「後からね? あの時やっておけばとか、もしこうしておけばって考えるのってとっても辛いから」

蝉郎さんは優しい顔をしている。

「そういうもしもが積み重なっちゃうと、ずっとずっと過去に囚われて、今が考えられなくなっちゃう。何故なら、己が過去に囚われてても、時間は進むから」

「蝉郎さんも……そうだったんですか?」

「……僕はただ夢を見ていただけなんだ。手に入らない過去を求めているときに、あり得ない現在を手に入れてしまったから。そろそろ元に戻さないといけない」

「それって……どういう……」

「君は、夏美ちゃんと一緒にいたいんだろう?」

「……はい」

「今の関係じゃ満足できないんだろう?」

「……はいっ」

「なら、やることは一つだろう?」

「……でも、蝉郎さんは」

「言っただろう? 元に戻さないといけないって」

元に……。

「さぁ、そうと決まれば、まずはこの段ボールをトラックに積み込まないとね!」

そうだった……本来はそっちがメインの用事だった。

「……ありがとうございます。蝉郎さん」

「いいんだよ。だって、大人は子供に助言するために存在しているんだからね」

蝉郎さんは大声で笑う。

「だからテストの点数を聞くし、好き嫌いはするなって言うし、好きな子の事を聞いてくる」

僕は、とても納得した。

「亮太君も、大人になってしばらくすると気付くよ。大人はみんな、子供だったって、当たり前のことにね」

蝉郎さんはニカッと笑う。

大人はみんな子供だった……。

当たり前だ。小さな子供だって知っている。

なのに、そんな当たり前の言葉は、僕の心にしっかりと刻み込まれた。


古戦場が明日から始まりますね。明日も更新します。

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