6 深夜の通話
ご指摘をいただいて、前回分を少々修正いたしました。感謝します。
水曜日。文化祭まであと三日後。
今日最後の授業を終え、今は帰りのホームルーム。
って言っても、すぐに帰るわけじゃない。
今日は真衣と一緒にマジックショーのリハーサルがある。
クラスの皆も、それぞれ文化祭に向けてやることがありそうだ。
「明日は授業はないが、一応出席は取ってるからな。サボるんじゃないぞ」
担任の角田先生が、そう言うと、亮太が急に立ち上がって、
「そうだサボるなよ! やることはたくさんあるからな! 絶対来いよ!」
甲高い声でそう叫んだ。
「……だそうだ。ちゃんと来るんだぞ」
先生は苦笑しながらそう言った。
ホームルームが終わった後、私と真衣は、いつもの部室……じゃなくて、校庭の外れにきていた。
校庭ではいつものように、運動部が活動していた。
「運動部の人たちって文化祭でなにかしないのかな」
私がそんなことを呟くと、隣で段ボール箱を抱えながら歩いていた真衣が
「文化部が活動を発表するから文化祭って言うのよ」
「え、そうなんだ」
「今考えたの」
「もっともらしい嘘を言わないでよ、もう」
「アリスって本当に騙されやすいタイプよね」
「うるさい」
「ごめんごめん、っと、ここらへんでいいかな。ここなら人もこなさそうだし」
「リハーサルをするのよね」
「そう。マジックショーのリハーサル。台本はこれね」
真衣からA4サイズのぺら紙を一枚受け取る。
そこには、色んなマジックの名前と、対応した小道具が書かれていた。
「アリスには、前もって用意した小道具を本番中私に渡すアシスタントの役割をしてもらうの」
「道具を持ってくるだけで良いの?」
「それだけじゃないわ。ほかにも大切なことがあるの」
大切な事……なんだろ?
「とびきりの笑顔よ」
「……え?」
予想外の答えだった。
「プロのマジシャンは、なんのためにマジックを披露するのか。夏休みの時に見たB・W様の映像を見て考えたの」
浦頭先生に見せてもらった映像の事ね。
「私は、みんなに自分のマジックの腕を見せたかった。びっくりさせたかった。それが楽しくてマジックをしていた。もちろんB・W様の憧れもあるけどね」
真衣は、少し吹っ切れた表情で、
「でも、それではプロにはなれないと思うの。だってマジックは誰かに見てもらうものなのに、自分だけが楽しくても意味がないものね」
私は、映像で楽しそうにマジックを披露するB・Wを思い出した。
「だから、お客さんを楽しませることを第一に考えることにしたの。まずは笑顔から。そうでしょ?」
真衣は、綺麗な笑顔を見せた。
「良い笑顔ね」
「アリスもやるのよ。練習する?」
私は頑張って無理やりな笑顔を作った。
「アリスは元が良いからそれでも結構可愛いのズルいわ」
「褒められてる?」
「褒めてる褒めてる」
なんか腑に落ちない……。
「ねぇ、真衣、ここにある小道具って言うのは真衣が用意してくれるの?」
「そうよ。自腹で用意したわ」
真衣は自腹の部分を強調した。
「この二重風船ってなんなの?」
「これは、膨らました風船の中にさらに膨らました風船を入れておくのよ」
真衣は、持ってきた段ボール箱の中から、風船と空気入れを取り出した。
真衣は手際よく風船を膨らましていく。
「この時、外側の風船の色が濃いのにしないと、中の風船が透けちゃうから気を付けてね。今日は外が黒、中が青にしようかな」
次に真衣は、お祭りの屋台の景品とかにありそうなエアガンを取り出した。
「よーし、見ててねアリス」
真衣は、手に持った風船めがけてエアガンを打った。もちろん弾は入ってないが、空砲の音と風船が割れる音が鳴り響く。
黒い風船が割れて、中から青い風船が出てきた。
「え? ねぇ真衣、どうやって黒い風船だけ割ったの?」
真衣は、風船を持っていた手の裾から、小さな針を取り出した。
「これで一突きよ。中の風船を割らないようにするのは意外と難しいのよ?」
針……いつの間に持ってたんだろう……
「中から出てきた風船と画鋲とかでお客さんに風船を割らしたりするから、この風船は何個か用意しとかないといけないわね。小道具って名前だけど、準備は結構大変だから、覚悟しといてね」
「りょーかいです」
「それじゃあ、一通りマジックを披露しながら、小道具の説明をしていくわ。ちゃんと覚えてよね?」
「うん。頑張る」
私は拳をぎゅっと握り占めた。
暗記は得意じゃないけど、ショー成功のため、頑張らないと!
その日の夜、お風呂も入って、寝ようかなって思った時、携帯が鳴り響いた。
「もう11時なのに誰……って、亮太!?」
亮太から電話……なんだろう……文化祭の連絡かな……それならメールでもいいし……。
とりあえず私は電話に出る。
「もしもし」
「あ、アリスか、夜遅くに悪いな」
亮太の声はいつもより元気がなさそうだった。
「本当よ。もう寝ようと思ってたんだから。それで? 何の用?」
「実は今日、夏美に聞いてみたんだ」
あ、恋愛相談だこれ。
「聞いたって、何を?」
「お父さんと仲悪いのかって」
「うん……思い切ったわね」
「あぁ……つい口に出ちゃってよ。それで、夏美、答えてくれたんだ。夏美はお父さんの事、許してないんだと」
許してない……。
「それ以降は、何も話してくれなかったけど、俺なりにそれがどういうことなのか考えたんだ」
「うん」
「夏美はお父さんともう一つ、毛嫌いと言うか敬遠してるものがあるんだ」
「何なのそれって」
「警察」
「……確か、夏美のお父さんも警察の人だよね?」
「あぁ。だから俺は、夏美がお父さんを嫌う理由に警察が何か関係してると思うんだ」
「なるほどね……」
「でも、そっから先が分からねぇ。なんで夏美がお父さんを許せないのか。どうして警察が嫌いなのか。さっぱりわからん」
「そんなこと、私にも分からないわよ」
「……悪い」
「……謝らなくていいよ。こういうのって、誰かに聞いて欲しいものだもんね」
「このことを話せるのは、お前ぐらいしかいなくて……太平のやつに聞いても良いんだが、こういうことって、意外と同姓には話しにくくてさ」
「ふーん。意外と亮太もそういうこと気にするのね」
「うるせー。それで、お前に電話したのはもう一つ理由がある」
「何?」
「蝉郎さんっているだろ」
「うん」
「お前のお兄さんに聞いて欲しいんだが」
「う、うん?」
急にお兄ちゃんを指名して何なんだろう?
「蝉郎さんの職業って何だと思うって聞いてくれないか?」
「えっと……蝉郎さんは、自分で私立探偵をしてるって言ってなかった?」
「言ってた。でも、俺にはそうは思えないんだ。この前、学校で夏美のお父さんと一緒に蝉郎さんを見た時にこの疑問は確信へと変わったんだが」
「亮太は、蝉郎さんは何をしている人だと考えてるの?」
刹那の間をおいて、亮太は答えた。
「あの人は、警察官だと思うんだ」
亮太は、そう答えた。
明日も更新するぞ




