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アリスとお兄ちゃんとシリーズ  作者: ピシコ
アリスとお兄ちゃんと来るべき将来
19/41

ある男の日記

夏休みのお話その2です。


 私がこの日記を書き続けて、もうすぐ一年になる。

 そろそろ日記帖も二冊目に変えなくてはならなくなりそうだ。

 いや、あと二、三日で変えることになるかもしれない。

 

 娘が都会から帰ってきた。

 久々に、と言っても、3か月ぶりなのだが、娘はどこか垢抜けたように見えた。

 高校は、都会の学校に行くのだと、娘が言い出した時、僕は否定しなかった。

 もちろん娘のことをどうでもいいと思っているわけではない。

 ただ、娘は……あの「葉月」のように、この田舎からいつか抜け出す時が来ることは分かっていた。

 それがもう来るとは思わなかったが……

 そして、その時期が早まった原因も分かっている。

 彼女の娘との出会い。それが娘を、そして私を大きく変えた。

 そう、大きく……とても大きな変化だった。

 彼女が私の前に現れなければ、私は娘を手放さなかっただろう。

 私は、永遠に妄想の檻から抜け出すことは出来なかっただろう。

 

 今にして思えば、娘は、私が都会に行くことを否定したとしても、彼女と暮らす事を切り札に、私を頷かせるつもりだったのだろう。

 私には、例え、いかなる理由があったとしても、娘と彼女の娘を引き離すことは出来ないし、する訳もない。

 親は、子に夢を託すべきなのか、私には答えは出せないが、娘は、私のたった一つの願いを、その身をもって実現した。

 私はもう、十分すぎる親孝行をしてもらった。そして、現在進行形で、それを享受している。

 私は、幸せ者だ。

 本当にありがとう……真由美。

 

 娘たちが通う高校は、9月の末に文化祭があるようだ。

 娘の話によると、どうやらお化け屋敷をするらしい。

 私は、今の内からなんとか休みがとれないかと



 コンコン


 ノックの音が響いた。

 僕は日記帖を閉じる。

「お父さん、今大丈夫?」

 ドアの向こうから、真由美の声がした。

「大丈夫だ」

 ドアを開けて真由美、そして、その後ろから深夏が入ってきた。

「ねぇ、お父さん、毎年恒例の花火大会って、確か今日だよね?」

「あぁ、確かそうだったな」

「やっぱり? ねぇ、私の浴衣ってまだ置いてある? 今日は深夏と二人で行く予定なんだけど、せっかくだから浴衣で行きたいしさ。それに深夏にも浴衣着てもらいたいし」

「あ、あのおじさん、別に私は私服でも……」

「えぇ~? 深夏も一緒に浴衣着ようよ」

「真由美の服はまだ、部屋のタンスにしまってあるだろう。二着あったかどうかは覚えてないが……あったとしても深夏ちゃんの方が背が高いし、着れないんじゃないか?」

「う~ん、どうしよっかなぁ」

「それなら、二人とも浴衣を借りに行くかい? 知ってるお店に貸し出しをしてる店がある」

「あ、それが良いかも! 深夏も良いよね?」

「えっと……良いんですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます。おじさん」

 深夏はぺこりとお辞儀をした。



 夕暮れ時、僕は真由美と深夏を車に乗せて、呉服店へと向かった。

 そこで二人は浴衣を着つけてもらった。

「う~ん、やっぱり歩きづらい……」

「もう、がに股だよ?」

「足だけサンダルにしようかな……」

「大丈夫か真由美。車に乗れるか?」

「もう、大丈夫だよっ!」

「あ、あのおじさん」

「ん? どうしたんだい?」

「花火の開始までまだ時間ありますよね?」

「ああ」

「出来たら、おばあちゃんも一緒に……」

「……」

「そうだね、その浴衣姿、おばさんにも見せてあげると良い」

「はい……ありがとうございます」

 そう笑う深夏の姿は、やはり見覚えのある姿だった。




 家に帰るなり、二人はすぐに寝てしまった。慣れない格好で足を痛めたのかもしれないな。

 おばさんは、深夏の浴衣姿を見て、とても喜んでいた。

 そしておばさんは、昔、葉月が来ていた浴衣をわざわざ引っ張り出して、深夏に渡していた。

 そんなものがあるなら、わざわざお店で借りなくてもよかったな……と思ったけれど、深夏とおばさんのうれしそうな顔を見て、そんなことはどうでもよくなった。

 

 今思い返すと、確かに葉月は、あんな色の浴衣を着ていたような覚えがある。

 微かでおぼろげな記憶には違いないのだが。

 

 私は、もしかしたら、葉月の事を少しづつ忘れているのかもしれない。

 いや、忘れているのではない。

 私は、新しい思い出を作っているのかもしれない。

 過去の思い出を新しい思い出に塗り替えているのかもしれない。

 娘たちと共に、新たな思い出を……。



 それが正しいことなのか、悪いことなのかは誰にも分からない。

 ただ僕は、今日の日が、娘たちの黄金の思い出になればいい。

 そうなることが、私の何よりもの願いだ。

次の更新は、土古戦場が終わったらです。五勝したいです

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