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アリスとお兄ちゃんとシリーズ  作者: ピシコ
アリスとお兄ちゃんと来るべき将来
15/41

アリスとお兄ちゃんと来るべき将来

一か月も間が開きました

 七月だというのに、教室の窓から入ってくる風は、サラっとしていて気持ちがいい。

 期末試験をなんとか終えて、明日は一学期の終業式。

 今日は、テスト返しの日で、私は正直ドキドキしていたけど(特に数学!)なんとか許容範囲内の点数で済んだわ。

 あ、今ちょっと私の事バカだと思ったでしょ?

 言っておくけど、国語と英語は90点以上取ったんだからね!

 とまぁ、今日はこのまま、午前中には学校は終わって、その後、真衣とこの前行ったショッピングモールで、噂のアイスクリームを食べに行くつもりなんだけど……

「……はぁ」

 私は幾度目かの溜息を付いた。

 私を悩ますのは、目の前にある一枚のプリント。

 そのプリントには「進路希望調査」と書かれている。

 進路希望ね……。

 正直に言ってしまえば、私には将来の夢ってやつがない。

 子供のころは、大好きだった幼稚園の先生に憧れて、先生って職業になろうかと考えた時もあったけど、今はそんなつもりは全然ない。

 っていうか高校一年生って、みんな将来の夢とか真剣に考えているの?

 私はふと、クラス全体を見回す。

 約三か月の間、同じ教室で過ごしたクラスメイト達……みんなは、本当に将来の夢ってものを既に描いているのかな……?

「……」

 私はプリントに、「幼稚園の先生」と書いた。

 とても、かすれそうな字で。



「アーリースっ!」

 ホームルームが終わるなり、後ろの席の真衣が、勢いよく私の肩を掴んだ。

「なによぉ」

「なにアリス、へばった顔しちゃって。もしかして夏バテ? でも今日は涼しいのに」

「……真衣は、さっきの進路相談の紙になんて書いたの?」

「え? 私? 私はもちろんマジシャンって書いたよ」

「……マジシャンって職業……?」

「職業でしょ!」

 真衣は胸を張って答える。

 真衣が手品が大好きで得意なのは知ってるけど、本当にマジシャンを目指してるなんて……。

「でも、マジシャンってどうやってなるの?」

「さぁ?」

 予想外の答えが返ってきた。

「あんまり知らないけど、私はマジシャンになる以外の未来を認めないわ」

「……なんで真衣はマジシャンになろうと思ったの?」

「アリスは、B・Wってマジシャン知ってる?」

 ビーダブリュー……聞いたことあるような。

「もう、10年以上前、世界中で活躍した凄腕のマジシャン。B・Wっていうのは黒と白の事を指していて、いっつも黒と白のチェック柄の衣装を来てステージに立っていたの」

 真衣は、早口で捲したてる。

「彼は、どんな手品も出来た。子供騙しのような簡単な手品も、息を呑むような脱出ショーまで。彼は完璧にこなす。そして、いつだって笑顔を忘れない。見てくれているお客さんのことを第一に思っている……私の憧れの人」

 私は、こんな表情の真衣を見たことがなかった。

 いつだってクールで、ポーカーフェイスで。そう、マジシャンのような立ち振る舞いをしていた真衣が、まるで、憧れの王子様を思う女の子みたい……。

「……でも、今から7年と4か月前、彼は突然世間から姿を消してしまったの。事実上の引退ね」

「そうなんだ……でもなんで引退しちゃったの?」

「それが分からないのよね……噂では、あまりのハードスケジュールに嫌気がさしたなんて話もあるけど、私には信じられないわ。ビデオに残ってる彼の表情からは、そんな素振り全然伝わってこないし」

 ビデオ……まぁ、昔の人の映像を見るためには必要かな……。

「それで、アリス。あなたの進路希望は何なの?」

「えっ? えっと……」

「大丈夫大丈夫。どんなのだって、私は笑ったりしないわ」

「いや……そう言うことじゃなくて……」

 自信満々に自分の進路について語れる真衣に、何も決めきれない私の話をするのはなんだか恥ずかしい……。

「ほらほら、言ってみなさいよ」

「……一応、幼稚園の先生って書いた……んだけど」

「へぇ、良いじゃない。幼稚園の先生なんて。私はアリスは、モデルとかが向いてると思ったんだけど、先生も良いと思うよ」

「も、モデル? なんで? 私のスタイルでモデルなんて……真衣の方が、よっぽど向いてるわよ」

「こんなに可愛らしい、お人形のような女の子、滅多にいないと思うのになぁ」

 真衣は、私の毛先を弄りながらくすくすと笑う。

「うるさいわね……お人形みたいって、本当にそれ、褒め言葉なのかしら」

「……アリスは、もっと自分に自信を持てばいいのに……」

 真衣は、小声で何か呟いたみたいだけど、よく聞き取れなかった。

「アリスちゃん、先生になりたいんだ」

 不意に、クラス委員長の夏美が、声をかけた。

「なによ夏美。盗み聞き?」

「ごめんごめん。つい耳に入っちゃって」

「委員長は、さっきの進路希望になんて書いたの?」

「私も学校の先生って書いたの」

「へぇ、アリスと一緒じゃない」

「うん……」

 同じかもしれないけど、夏美はしっかり考えたうえで先生を目指してるんだろうな……。

「でも、私、本当は、先生になるつもりはないの」

「え?」

 予想外の答えが返ってきた。

「一応、何か書いとかないとって思って先生って書いただけで……他になりたいもの……」

 夏美は少し口をつぐんだ後、

「私、あんまり将来の事はまだ、考えてなくて……」

 そう言って苦笑した。

「夏美……」

 私は思わず夏美の手を取って

「アリスちゃん?」

「そうだよねそうだよね……進路希望とか、全然考えてないよね……!」

 私が、思わぬ仲間がいたことに感動していると、

「聞けお前ら! 俺の進路を!」

 甲高い声でそう叫んだのは、言うまでもなく亮太だ。

「聞いてない」

「うるせぇアリス! 俺はお前に聞いて欲しいわけじゃねぇし!」

「今お前らって言ったじゃない!」

「うるせぇ! お前以外の二人に言ったんだよ!」

 相変わらず、私には噛みついてくるわねこいつは!

「亮太君は、進路希望なんて書いたの?」

 夏美がそう聞くと、亮太は鼻を鳴らし

「俺は、将来警察官を目指しているんだ。そんでもって、この灰色の脳細胞を駆使して、難解事件をバシバシ解決するのさ!」

「警察ねぇ……」

「なんだよアリス」 

「あんたみたいな、チビに人を取り締まれるの?」

「そんな野蛮なことは、脳筋の連中に任せればいいのさ」

「……亮太君、警察官になりたいんだ……」

「ああ、そうだよ」

「……警察って危ないよ?」

「そりゃそうだけどさ、俺の夢だから、そんなことじゃ諦めきれないよ」

「……」

 心なしか、夏美の表情は暗い。

「夏美? どうした? 具合悪いのか?」

「ううん、何でもないの。ところでアリスちゃん、この後、どこか行く予定ある?」

「私と真衣は、この後、この前言ったショッピングモールでアイスを食べに行く予定なの。夏美も一緒に行く?」

「一緒に行って大丈夫?」

「いいよね真衣」

「勿論」

「なんだ、お前らもあそこに行くのか」

「亮太もこの後行くの?」

「ああ。太平の奴と一緒に、新しいボードゲームを買うんだ」

「椎名君も行くんだ」

「まぁ、一緒に行ってやってもいいぞ」

 私は、また上から目線……って言おうと思ったけど、亮太の気持ちに気づいて、

「まぁ、一緒に行きましょ。ナンパはしっかり守ってよね」

「どうせ、お前はナンパされないだろうが、仕方ないな」

 本当に、一言多いのよ相変わらず!

「太平、お前も別にいいよな。みんな一緒で」

 亮太がそう言うと、椎名君はいつもの低音ボイスで、

「亮太が良いならいいよ」

 と答えた。

 多分椎名君も、亮太の恋心を知ってるんだろうな……。

「よーしそれじゃあ出発だ」

 亮太はそう言うと、さっさと教室から出ていく。

 夏美と椎名君もそれについていくように教室から出ていく。

「私たちも行きましょ」

「そうねアリス」

 私たちが、教室から出ようとすると、真衣が急に立ち止まった。

「真衣?」

 真衣の視線の先には、席に座ったままの渡辺さんと目が合った。

「あ、渡辺さん。渡辺さんも一緒にお買い物行く?」

 私が何の気無しに渡辺さんにそう話しかけると、渡辺さんは、少しオドオドとした様子で、

「えっと~真衣ちゃんがいいなら……」

「真衣? 真衣は良いよね? 渡辺さんも一緒にいて」

「そんな目で……」

「え?」

「勿論。なべ子も一緒に行きましょ」 

 真衣がそう言うと、渡辺さんは、ぱぁっと笑顔になって

「誘ってくれてありがとうアリスちゃん~今日はいっぱいお洋服選んでいいのよね~?」

「……お人形扱いはごめんよ?」

「ふふふっ、さぁ、行きましょ。こんな大所帯になるなんて、思いもしなかったわ」


 下駄箱に降りると、先に行った三人が待っていた。

「さっき、ここで七戸の奴にあったぜ。あいつにも誘ってみたけど。なんでも荷造りで忙しいらしい。夜逃げでもするつもりなのかな?」

 亮太はそう言ってるけど、真由美の実家は東北だ。多分夏休みを利用して、実家に帰るんだろう。

 お土産をくれるよう、後でメールしておこう。

「さぁ、今度こそ出発だ!」

 カツカツと、ローファーで蹴る音が鳴り響く。

 下駄箱を抜けると、夏の日差しが燦燦と私たちを照らした。

 季節は夏。

 私たちの高校生活において、最初の夏休みがもうすぐやってくる。

 


光古戦場が終わったら書き始めます……

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