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アリスとお兄ちゃんとシリーズ  作者: ピシコ
アリスとお兄ちゃんと本の虫
14/41

その5

 私と真由美は、再び部室に戻っていた。

 真衣は、ソファーに寝転がって、パズルアプリで遊んでいた。

「さぁ、聞かせてよ真由美。どうして……」

「ちょっと待ってよアリス! 真衣がいるから……」

 真衣はくすっと笑って、

「大丈夫大丈夫。私は口は堅い方だから~」

「……もし、今から言うことをバラしたら、この部屋の事、先生に言うからね」

「はい。誰にも言いません」

 真衣は深々と頭を下げた。

「……それで真由美確認だけど、本当に深夏先輩と二人暮らしをしているのね?」

「うん……本当」

「二人は親戚同士でもないのね?」

「うん」

「じゃあどういう縁で二人暮らしをしているの?」

「えっと……友達?」

 うん……そうなるわよね。

「じゃあ話を変えましょう。真由美って東北出身よね? どうして高校はこっちにしたの?」

「それは私が、田舎から出たかったから」

「両親はそれでOKしたの?」

「あ、私、お父さんしかいないんだけど、良いって言うまで話したの」

 良くOK出たわね……。

「お父さんに深夏と一緒に住むって言ったら了承してくれたのよ」

「真由美は、深夏先輩と子供のころから仲が良いの?」

「ううん。初めて会ったの去年だよ」

「一年前に知り合った人と今一緒に住んでるの?」

 真衣が驚いた声を出す。真衣が驚いてるところ久々に見たわ。

「うん。でもまぁ、なんだか深夏とは初対面の時から、すぐに仲良くなれたんだけどね」

「でも真由美のお父さんも、深夏先輩の事よく信頼してるのね」

「うん。すっごい信頼してる。なんでも、深夏のお母さんとうちのお父さんが子供のころ友達だったんだって」

「ああよかった。七戸さんのお父さんと、深夏先輩のお母さんが実は付き合ってて、七戸さんと深夏先輩が実は双子だったみたいな話かと思ったわ」

 真衣は胸を撫でおろすように言った。

 もし本当にそうなら、一つの話が作れそうね……。




 ペラペラと紙をめくる音が響く図書室。

「小山内君は、本当に頭が良いんですね」

「……普通だよ」

 小山内君は、本から目をそらさず、私に返事をします。

 一年前からずっとそう……。彼はまさしく本の虫です。

 私も、彼には劣りますが、読書は大好きです。現にこうやって二年連続図書委員を務めていますから。私も本の虫……とまでは行きませんね。本のサナギです。

「成績は、小野寺の方が上だ」

「褒めなくても、ノートは貸してあげますよ?」

「……」

 小山内君は、何も答えません。

「一つ、聞いても良いですか」

「何?」

「私と真由美が一緒に住んでるって、いつごろから気付いてたんですか?」

「四月」

 小山内君は即答しました。

「真由美さんが、図書室に来て、小野寺と一緒に帰ったとき、そう思った」

「どうしてわかったんですか?」

「……」

 小山内君は、本をパタンと閉じました。

「小野寺は、去年俺に話してくれた。一人暮らしをしていること。両親は既にいないこと。一人暮らしなのはお世話してくれたお婆さんを楽させるためだということ。そして、夏休み明けからは、休みの間に仲良くなった真由美さんの事」

 小山内君は私の眼をじっと見つめています。

「……今から俺が話すことは、ほとんどが感情論だ。論理的じゃない。感情論は推理には程遠い」

 小山内君が感情論……。

「でも話す。経験に勝るものはないからだ。小野寺は、夏休みが明けてから、以前よりも明るくなった。心の平穏を取り戻したように見えた」

「……」

「そして、真由美さんの話題をするようになった。俺は、その真由美さんが、小野寺の心を癒してくれたんだと思った」

 真由美……。真由美はそう……私にとって特別な存在。

「そしてその真由美さんが、今年からこの高校に来た。しかし小野寺は今年から、真由美さんの話はあまりしなくなった。毎回委員会の帰りに迎えに来る真由美さんの事を」

「……露骨でした?」

「それはもう。だから、俺はあんまり真由美さんの事を詮索してほしくないのだと思った」

「……真由美の話をしてたらつい口に出してしまいそうで」

「俺も無理に詮索する気はなかった。でも、今日うちの妹が……申し訳ない」

 小山内君は頭を下げます。

「いや、そんなっ、きっと真由美が何か勘違いして……そもそもなんで今日、あの二人はここに……」

「それは俺にも分からない」

「……一つ、聞いても良いですか?」

「なんだ?」

「小山内君の感情を引き出したその経験ってなんですか?」

「……」

 小山内君は、少し黙ったのち、

「昔……小野寺と同じ眼を見た」

「眼?」

「入学したころの小野寺と同じ眼をした奴を昔見た。あの眼は、何か大切な何かを失った時の眼だった」  

「……」

 入学したころの私……ずっとお世話してくれたお婆ちゃんから離れて一人暮らしをしてた時の私……。

「その時、俺は、この人も何かを亡くした人なんだって思った。そしてその何かが取り戻せないものなんだって。俺が昔見た奴もそうだったから」

「だから小山内君は、私に優しいんですか?」

「……俺は誰にだって平等だよ」

「……妹さんは?」

「……」

「私を、妹さんと重ねてたんですね?」

「……」

「図星……ですか?」

「……親父が死んでから、あいつは毎日毎日泣いていた。水たまりができるんじゃないかって思うほど」

「……」

「悲しみを消すために、小野寺は、新たな出会いを見つけた。あいつも……そうだといいんだけどな」

 小山内君は、とっても優しい瞳をしていた。ほんのり青いその瞳に、私は吸い込まれそうになった。

「小野寺……」

 小山内君の顔が近づいてきます……って、これってまさか……

「えっ……ちょっ……」

「今話したことは、他言無用で頼む!」

 小山内君は両手を合わせて頭を下げました。

「えっ……」

「正直、自分自身、感情論をもとに推理をするなんて、あり得ない話だからな」

「……むぅ」

 私は思わず頬を膨らましてしまいました。

「え、ダメなのか? と、図書カードも上げるから!」

「……はぁ。大丈夫です。他の人には話しません。でも図書カードは貰っていきます」

「そう言えば小野寺。二人暮らしって実際忙しくないのか? 図書委員会って結構時間かかるし、家の事とかどうなんだ?」

「真由美にも結構手伝ってもらってますし……それに私、委員会の時間好きなんです。ゆっくりと読書できますしね」

「……前から思ってたけど、小野寺って本当に読書好きだよな。まるで本の虫みたいだ」

 本の虫が、にこやかにそう言いました。

  

次回から7月編です

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