その4
私と真由美は、少しだけドキドキしながら図書室へと向かった。(あ、真衣は面倒だからパスだって)
「私、うちの高校の図書室行くの初めてだと思う」
「え? 四月にあったオリエンテーションで行ったでしょ? 覚えてないのアリス」
四月のオリエンテーション……駄目だ。二か月前なのに、もうおぼろげだわ……。
「私は、深夏を迎えに行ったり、待ち合わせをする時によく行くんだよね。まぁ、本を借りたことはないんだけどね」
確かに真由美は本を読むイメージはあんまりない。どちらかと言うと、体を動かす方が好きなイメージだ。
「私は全然読まないけど、深夏はすごいよ~。暇さえあれば読書してるって感じ」
「うちのお兄ちゃんも、そんな感じ。家にいるときはずっと本を読んでてさ」
「深夏も一緒」
真由美はそう言ってくすっと笑う。
……やっぱり真由美と深夏先輩は……
「あ、そろそろ図書室。アリス? 図書室では静かにするんだよ?」
「分かってるわよ……子ども扱いしないでよね」
「ふふっ、アリスはちんまくてめんこいから、ついつい意地悪したくなっちゃうわ」
真由美はクスクス笑いながら、図書室への扉を開ける。
図書室内はやっぱりというか、静まり返っていた。
そもそも人が全然いない。
若者の活字離れは深刻ね。私が言えた話じゃないけど。
「あ、ほらみてアリス。受付のところに」
真由美が指さした方向にはお兄ちゃんと、もう一人見たことのない女生徒が、並んで本を読んでいた。
あの女生徒が恐らく深夏先輩なのだろう。
……うん。深夏先輩はお兄ちゃんの彼女にするにはもったいないわ。
深夏先輩は、正に、理想の文学少女のような見た目をしている。
真っ黒な長髪をポニーテールにして(そういや真由美もポニーテールだ)
少しだけ儚い表情と共に、ページをゆっくりとめくるその仕草。
もちろんその顔立ちは、女優顔負けだ。(私もあんな女性になりたい)
「ねぇ、確認だけど、あそこにいる女生徒が深夏先輩?」
「うん、そうだよ」
「……ねぇ真由美、本当に深夏先輩が、うちのお兄ちゃんの事を好きだと思ってるの?」
「え?」
「あんな綺麗な人、うちのお兄ちゃんには勿体ないわ!」
「ちょ、ちょっとアリス! 声でかっ、しーっ」
「はっ」
私は慌てて口をふさぐが、既に時遅し。
本を読んでいた深夏先輩と、ばっちり目線がぶつかってしまった。
「図書館では静かに……って真由美? どうしたの? 何か用なの?」
「あはは……ごめん深夏」
真由美は、苦笑いを浮かべながら、深夏先輩たちに近づく。私もそれにならう。
「もう、どうしたの? 今日は委員会があるから、遅くなるって言ってあったじゃない」
「えっと……」
「あれ、それで、こっちの金髪の女の子は……」
深夏先輩は、覗き込むように私を見る。
本当にきれいな人……じゃなくて!
「あ、あの私、小山内アリスって言います」
「小山内……」
深夏先輩は、お兄ちゃんを見る。
「もしかして、小山内君の……」
「あぁ、うちの妹だ」
お兄ちゃんは相変わらず、本から目を逸らさずに答えた。
深夏先輩は、私とお兄ちゃんを何度も見比べる。
「じゃあ、あなたが噂のアリスちゃんなんだね? 初めまして。私は、小山内君のクラスメイトで、小野寺深夏っていいます。よろしくね」
にこやかに笑う深夏先輩。
「それで、真由美? どういった用なの? 小山内君の妹さんまで連れて」
「えっと……それは……」
真由美は、私に助けろ! って目配せを送ってくるけど、私にはどうすることも……
「あっ、あの、深夏先輩、聞きたいことがあるんですけど」
「え、アリス、そんなまさか、直接……」
「なに? アリスちゃん」
「あの、先輩と真由美って、一緒に住んでるんですか?」
『えっ』
真由美と深夏先輩の声が綺麗にハモった。
「あの、アリス……?」
「ちょっとおかしいなって思ったんです。二人は別に兄弟でもないし、学年も違うのに、真由美は、深夏先輩の事を迎えに行ったりとか、家に居るときのことまで知ってる」
なんだろう……自分で言葉に出すたびに、それが確信に変わっていくこの感じ……。
「そもそも、仲の良い先輩の恋の相談に、ここまで真剣になるってことは、余程の関係性がないとおかしいですし」
「恋の相談……? 真由美?」
「えっと……」
真由美の眼は泳いでいる。
「それで、思ったんです。真由美は確か、中学校までは東北にいて、高校から、こっちに来たって言ってました。私は最初、家族みんなで引っ越してきたのかと思ってたけど、もしかしたら、真由美一人だけ、こっちに引っ越してきたんじゃないかって思ったんです」
気付いたら、真由美と深夏先輩は、お互いの手を絡めながら怯えている。「そして、真由美は深夏先輩の家にお世話になっている……」
「あ、アリス……どうしてそこまで……」
「やっぱり! じゃあ二人は親戚どうしなのね?」
「……」
「……」
「あれ?」
「アリスちゃん、私と真由美は親戚どうしではないのよ」
「うんうん」
「え? でも、二人は一緒に住んでるんだよね?」
「それは……そうだけど……」
「……アリス」
「なによお兄ちゃん」
さっきまで黙ってたのに。
「推理を始めるときは、『さて』ってつけてから、言い始めるんだぞ」
「……う、うん」
「でも、良い推理だった。最後を外したのは惜しかったが」
「じゃあ、お兄ちゃんは分かってるの? 二人の関係性を」
「まぁ、憶測だけどな」
「じゃあ……」
「……」
お兄ちゃんは、深夏先輩を一瞥した。
それを受けて、深夏先輩は小さく頷いた……様に見えた。
「……そもそも、アリスは、小野寺が一人暮らしだったのは知ってたか?」
深夏先輩が一人暮らし?
「ううん。初耳だわ。っていうかなんでお兄ちゃんはそのことを?」
「俺と小野寺は、一年生の時も、同じクラスで、同じ図書委員だったから、知ってたんだ」
ふ~ん……家庭の事情を知ってるなんて、やっぱり仲が良いのかしら……。
「えっと、君の名前は確か真由美さんだったっけ?」
お兄ちゃんは真由美に聞く。
「あ、はい……」
「うん。ずばり結論から言うと、小野寺と真由美さんは、ただの友達だ。とっても仲の良い……な」
「……え」
私は絶句した。
「え? 本当? ただ友達同士の関係なの?」
私は、真由美を見る。
「あ~。まぁ友達同士ではあるかな」
「うん……とっても仲の良い親友……だよ」
私はなんとなく腑に落ちない。
「でもなんで、二人はそのことを隠して……あっ」
私は、その時、頭の中の電球がピカッと光ったような感覚に陥った。
「まさか……二人暮らし……?」
真由美と深夏先輩は気まずそうに頷く。
「え……っと、その……先生は知ってるの?」
「……一部は知ってるわね」
「生活費とか……いや、そもそも女子高生二人だけで住んでるなんて……」
その時、図書室のドアが開いた。
入ってきたのは、見たことのない先生だった。
先生は、こちらを一瞥したのち、部屋の奥へと入っていく。
「……アリス、外出よ」
真由美は私の腕を付かんで引っ張っていく(相変わらず力が強い)。
「ちょっと……まだ気になることが……」
「後で言うから! 先生がいる所ではしたくないの」
私は真由美に引きずられるように図書室から出ていく。
マグナ2しんどくないですか




