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### 【資料72】王立魔道具研究所・古文書照合報告書
作成日:王国暦758年7月3日/機密区分:第三級
照合対象: 《星脈観測器》外周部の刻印、および王都古文書庫所蔵の古代図面。
発見の経緯:
《星脈観測器》の刻印を調査していた研究員サミュエル・ロウは、アレン・ヴァルハイトが作成した環の配置図と、王都古文書庫に所蔵されていた図面の一部が一致することを確認した。
当該図面は、約千二百年前のものと推定される。
古代文字の解読は不完全であるが、図面の表題には、現代語で「世界接続装置」と訳せる文字列が含まれていた。
照合結果:
- 外周部の刻印:七か所が一致。
- 三重環の配置:基本構造が一致。
- 中央部の構造:現存する《星脈観測器》とは異なる。
- 動力機構:記載なし。
- 使用目的:不明。
研究主任所見:
「現存する装置が、古代図面に記された装置の一部である可能性は否定できない。しかし、図面に記された名称だけを根拠として、両者が同一の機能を持つと判断することはできない」
報告書の添付資料には、アレンによる手書きの注記がある。
> 「同じ形をしていることと、同じ働きをすることは別の問題です。
>
> ただし、同じ形が同じ位置に現れるなら、比較する価値はあります」
この注記は、研究主任の見解とも一致していた。
研究所は古文書の追加調査を決定し、《星脈観測器》の研究班を増員した。
一方で、装置の機能が明らかになるまでは、起動を目的とした操作を禁止することも決定された。
### 【資料73】古代文明研究室・文献調査記録
調査期間:王国暦758年7月4日〜7月8日
古代文明研究室が確認した文献には、現在の魔法理論とは異なる世界観が記されていた。
現代の魔法学では、魔法は人間や生物が持つ魔力を消費し、特定の術式を通じて現象を引き起こす技術と定義されている。
一方、古代文献には、魔力とは別に「星脈」と呼ばれるものが登場する。
星脈の定義は、文献によって異なる。
ある文献では大地を流れる力とされ、別の文献では天体の運行と結びついた現象として記されている。
また、一部の文献では、星脈が生物の魔力や魔道具の動作に影響を与える可能性が示唆されていた。
ただし、これらの記述には神話的表現が多く含まれており、自然現象の記録なのか、宗教的な比喩なのかを区別することは困難だった。
文献抜粋・暫定翻訳
> 星の道は、石の中にも、人の中にも、空の向こうにも続く。
>
> それを生み出す者はいない。
>
> 我らにできるのは、その流れを知り、触れ、利用することだけである。
翻訳担当者は、ここでいう「星の道」が、現在の魔法学でいう魔力の流れを指す可能性を提示した。
しかし、研究班のアレンは、その解釈に疑問を示した。
アレン提出・照会メモ
> 「この文章が魔力について書かれたものだと判断した根拠は何でしょうか。
>
> 魔力と星脈が同じものだと確認されていないのであれば、別の現象である可能性も残すべきです。
>
> 既存の言葉に当てはめることで、未知の現象を見落とすことがあります」
この意見を受け、研究室は文献の翻訳方針を変更した。
既存の魔法用語に置き換えるのではなく、原文の意味を可能な限り保持したうえで、複数の解釈を併記する方式が採用された。
後年、この翻訳方針は「ヴァルハイト式対照翻訳」と呼ばれるようになる。
### 【資料74】研究所内・技術者会議議事録
開催日:王国暦758年7月9日
議題: 《星脈観測器》の今後の調査方法について。
出席者:
- ユリウス・フェルナー研究主任
- サミュエル・ロウ記録担当
- 古代文字研究室代表二名
- 魔法回路研究室代表三名
- アレン・ヴァルハイト
発言記録・要約
魔法回路研究室代表:
「装置が魔力を必要としないのであれば、何らかの外部エネルギーを利用していると考えるべきだ。古代の技術者が現在知られていない魔力供給方式を使用した可能性が高い」
古代文字研究室代表:
「そもそも、この装置が動力装置であるという保証はない。観測、記録、通信など、別の目的を持つ可能性もある」
ユリウス・フェルナー:
「双方の仮説を検証するためにも、まずは装置が反応する条件を確定する必要がある」
アレン・ヴァルハイト:
「反応する条件を調べるのであれば、何も変えない実験も必要です」
この発言に対し、複数の出席者がその意図を尋ねた。
アレンの回答は、次のように記録されている。
> 「何かを加えて反応が起きれば、加えたものが原因だと考えたくなります。
>
> ですが、何も加えていないときにも反応するのであれば、最初から装置の外側に原因があるのかもしれません。
>
> 反応が起きない条件と、起きる条件の両方を記録しなければ、何が違うのか分かりません」
会議では、この提案を採用することが決定された。
以後、研究班は魔力の供給や装置への接触を行わず、一定期間にわたって環境と装置の反応を記録することになった。
### 【資料75】《星脈観測器》・無操作観察記録
観察期間:王国暦758年7月10日〜7月16日
観察条件:
- 装置への魔力供給を行わない。
- 装置に直接触れない。
- 観察室への出入りを記録する。
- 室温、照明、振動、魔力測定値を継続的に記録する。
- 反応が発生しなかった時間帯も同じ形式で記録する。
観察結果:
| 日付 | 環の動き | 測定器の変動 |
| ----- | ---------- | ------- |
| 7月10日 | なし | 微弱な変動一回 |
| 7月11日 | 第一環が微小回転 | 回転前に変動 |
| 7月12日 | なし | 変動なし |
| 7月13日 | 第二環が微小回転 | 回転前後に変動 |
| 7月14日 | 三つの環が同時に振動 | 一時的な変動 |
| 7月15日 | なし | 微弱な変動二回 |
| 7月16日 | 第一環と第三環が回転 | 回転前に変動 |
観察期間中、装置に魔力が供給された記録は存在しない。
また、環の動きと室温、照明、観察室の振動との間に、明確な相関は確認されなかった。
一方、測定器の変動が環の動きより先に発生する事例が複数回記録された。
研究班は、測定器が装置の動作を予測しているのではなく、装置の動作に先行する何らかの変化を捉えている可能性を指摘した。
ただし、測定器の精度や記録時刻の誤差を完全には排除できず、確定的な結論は保留された。
この記録に対して、アレンは追加の確認事項を提出している。
追加確認事項
一、測定器が検出しているものは、本当に魔力なのか。
二、測定器の反応は装置の動作によって生じるのか。それとも、装置と測定器の双方に影響を与える別の現象があるのか。
三、現在の測定器で反応を確認できない時間帯にも、同じ現象が存在している可能性はないか。
この三点は、当時の研究班では回答できなかった。
### 【資料76】アレン・ヴァルハイト研究ノート・第十七葉
推定記載時期:王国暦758年7月中旬
このノートには、現代日本に関する記述はない。
ただし、後世の研究者は、アレンが過去の人生で得た知識を活用していた可能性を指摘している。
彼の記録には、魔法理論とは異なる考え方が頻繁に現れる。
> 「装置を調べるとき、最初に考えるべきなのは、どう動かすかではない。
>
> 何が起きているのかを知ることだ。
>
> 動かないものを動かそうとすれば、動かない理由を見落とす。
>
> 動いているものを止めようとすれば、動いている理由を見落とす。
>
> まずは、観察する。
>
> 次に、条件を変える。
>
> その結果を比較する。
>
> 予想と違えば、予想を修正する。
>
> それを繰り返す」
この記述の下には、別の文章が続いていた。
> 「魔力がないという判定についても、同じことが言える。
>
> 魔力がないと判断するためには、何をもって魔力とするのかを知らなければならない。
>
> 測定器が反応しない。
>
> それは観察された事実だ。
>
> しかし、測定器が反応しない理由まで分かったわけではない。
>
> 事実と、その事実についての解釈を混同してはいけない」
この文章は、アレンが自らの能力を証明しようとしていたことを直接示すものではない。
むしろ、彼は自身の過去の判定に対しても、装置を調べるときと同じ基準を適用しようとしていた。
王立歴史院の注釈には、次のように記されている。
「彼は、自分が無能ではないと最初から信じていたのではない。無能という判定が正しいかどうかを、改めて確かめようとしていたのである」
### 【資料77】王立魔道具研究所・比較実験計画書
承認日:王国暦758年7月18日
実験目的:
《星脈観測器》が示す反応と、一般的な魔力測定器の反応との関係を調べる。
実験内容:
一、アレン・ヴァルハイトが装置から離れた状態で測定を行う。
二、アレンが装置に接近した状態で測定を行う。
三、魔力を持つ研究員が同じ条件で測定を行う。
四、参加者の順番を変更し、複数回の測定を実施する。
五、参加者がいない状態でも測定を継続する。
六、装置の反応と測定器の数値を別々に記録し、後から比較する。
実験上の注意:
参加者の身分や過去の検査結果を、測定結果の判定に使用しない。
承認者: ユリウス・フェルナー
この実験計画には、従来の研究所ではあまり見られなかった一文が含まれていた。
「参加者の身分や過去の検査結果を、測定結果の判定に使用しない」
これは、アレンの幼少期の検査記録を再調査した結果、研究所が追加した規定だった。
これまでの魔法研究では、魔力の多寡や属性適性によって、研究対象となる人物が選別されることが一般的だった。
しかし、測定器の反応と実際の現象が一致しない可能性がある以上、事前の判定を理由に観察対象から除外することは適切ではない。
この規定は、後に王立魔法学院の実験指針にも採用された。
### 【資料78】比較実験・第一回結果報告
実施日:王国暦758年7月20日
参加者: 五名
測定器: 現行型魔力測定器二台、旧式測定器一台
観察対象: 《星脈観測器》
主要結果:
- 魔力保有量の多い研究員が接近しても、装置が必ず反応するわけではなかった。
- 魔力保有量の少ない研究員が接近した際にも、微弱な変動が記録された。
- アレンが接近した場合、旧式測定器で複数の変動が記録された。
- 現行型測定器では、同じ時間帯に明確な変動が確認されない事例があった。
- 参加者がいない状態でも、装置の環が動くことがあった。
暫定結論:
装置の反応は、参加者の魔力保有量だけでは説明できない。
また、旧式測定器と現行型測定器の間で反応に差が見られるため、測定器の設計そのものが結果に影響している可能性がある。
研究主任所見:
「現段階では、アレン・ヴァルハイト個人に特殊な能力があると結論づけることはできない。しかし、従来の魔力測定だけでは説明できない現象が存在することは、認めざるを得ない」
実験終了後、アレンは研究班に対して、旧式測定器の構造を詳しく調べることを提案した。
旧式測定器は、現行型に比べて精度が低く、誤差も大きい。
そのため、研究所では通常、旧式測定器を正式な検査に使用することはなかった。
しかしアレンは、精度が低いことと、現行型とは異なる現象を検出することは別の問題だと指摘した。
測定器の内部構造を比較すれば、両者の違いを明らかにできる可能性があった。
研究所は、旧式測定器の分解調査を許可した。
### 【資料79】旧式魔力測定器・分解調査報告書
調査日:王国暦758年7月23日
調査担当: アレン・ヴァルハイト、ユリウス・フェルナー
調査対象: 王立魔法学院旧式魔力測定器・第六型
調査結果:
旧式測定器には、魔力を検出する結晶部のほかに、微弱な振動を機械的に増幅する構造が存在していた。
現行型測定器では、この構造は廃止されている。
旧式測定器の設計資料によれば、振動増幅部は、魔力の微細な変化を検出する目的で設置されたものだった。
しかし、後年の改良によって、測定精度を向上させるための新しい結晶部が導入されると、振動増幅部は不要と判断された。
その結果、現行型では、旧式測定器が示す一部の反応を確認できなくなっていた可能性がある。
アレンの技術所見:
> 「旧式の方が優れているという意味ではありません。
>
> 現行型は、測定対象を絞ることで精度を上げています。
>
> ただし、測定対象から外れたものについては、反応があっても記録されない可能性があります。
>
> どちらが正しいという話ではなく、何を測るための道具なのかを確認する必要があります」
この報告を受け、研究所は旧式測定器と現行型測定器を併用する方針を決定した。
アレンの幼少期の検査結果についても、旧式測定器の反応が何を示していたのか、再検証することになった。
しかし、そのためには当時使用された測定器そのものが必要だった。
王立魔法学院の備品記録を確認したところ、該当する測定器は検査から二年後に廃棄処分となっていた。
廃棄理由は「測定値の不安定化」。
廃棄を承認したのは、当時の教務監督官ローデリック・ハインツだった。
そして、その廃棄記録の末尾には、アレンの検査台帳には存在しなかった管理番号が記載されていた。
「第六型測定器・追加記録簿、別冊一」
別冊一の所在は不明だった。
## 【資料80】王立歴史院・第九話総括
アレン・ヴァルハイトが《星脈観測器》の調査に参加してから、約一か月が経過した。
その間に確認されたのは、彼が特殊な魔法を使えるという証拠ではない。
確認されたのは、従来の魔力測定器では説明できない反応が存在し、現行の魔法理論だけでは装置の動作を十分に説明できないという事実だった。
また、旧式測定器と現行型測定器では、測定対象の範囲が異なっている可能性が浮上した。
これにより、アレンの幼少期の検査結果も、再検証する必要が生じた。
一方、彼の研究方法は、王立魔道具研究所に少しずつ変化をもたらしていた。
魔力保有量だけで研究対象を選別しないこと。
仮説と観察結果を区別すること。
反応が起きなかった場合も、同じ価値を持つ記録として保存すること。
そして、測定器の数値を、現象そのものと混同しないこと。
これらは、後に王立魔法学院の研究規定へと取り入れられていく。
しかし、アレンの幼少期の検査記録に残された疑問は、まだ解決していなかった。
当時の測定器は、何を検出していたのか。
なぜ再検査は中止されたのか。
そして、廃棄された測定器の追加記録簿には、何が記されていたのか。
王立魔法学院の旧資料管理簿によれば、別冊一は廃棄されていない。
別の保管区分に移された記録が残っていた。
移管先は、王都地下文書庫。
その保管区分は、一般の研究員には閲覧が許可されていない、\*\*「王国機密・魔法体系成立以前の記録」\*\*だった。




