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### 【資料81】王都地下文書庫・閲覧申請書
申請日:王国暦758年7月26日
申請者: ユリウス・フェルナー
同行研究員: アレン・ヴァルハイト、サミュエル・ロウ
申請対象: 王国暦750年以前の魔力測定器に関する追加記録簿
申請理由: 《星脈観測器》の研究および旧式魔力測定器の測定範囲に関する再検証。
審査結果: 却下。
却下理由: 対象資料は王国機密に指定されており、通常の研究目的では閲覧を許可しない。
審査担当部署: 王宮秘記管理局。
申請は、提出から三時間以内に却下された。
通常、古い魔道具の技術資料を閲覧する場合、王立魔道具研究所の主任研究員には一定の閲覧権限が認められている。
しかし、今回の対象資料には特別な制限が設けられていた。
ユリウスは、王宮秘記管理局に再審査を申し立てた。
再審査の理由は、単純だった。
《星脈観測器》の構造と、旧式魔力測定器の一部構造に、共通する特徴が確認されたためである。
これらの構造が、魔法体系成立以前の技術に由来する可能性を排除できない以上、資料の閲覧は研究上必要だと判断された。
二度目の申請も却下された。
ただし、二度目の回答には、最初の回答にはなかった一文が追加されていた。
> 「対象資料の閲覧は、王立魔道具研究所単独の判断では許可できない。
>
> 当該資料が王国の現行魔法体系に関わると判断される場合は、別途、王宮顧問会議の承認を要する」
この回答を受けたユリウスは、研究所長に直接報告書を提出した。
そして、アレンはその報告書の末尾に、短い追記を残している。
> 「閲覧できないことと、内容が重要であることは別の問題です。
>
> ただし、閲覧できない理由そのものも、調査対象にはなり得ます」
### 【資料82】王立魔道具研究所・内部検討会議議事録
開催日:王国暦758年7月28日
議題: 《星脈観測器》の研究継続と王国機密文書の取り扱い。
出席者: 研究所長、ユリウス・フェルナー、各研究室代表、記録担当サミュエル・ロウ。
会議では、研究の継続方法について三つの案が提示された。
第一案は、機密文書の閲覧を断念し、現在確認できている装置の構造だけを研究すること。
第二案は、王宮顧問会議に正式な審査を申し立て、機密文書の閲覧を求めること。
第三案は、機密文書を必要としない範囲で、現行の測定器と旧式測定器の比較実験を継続すること。
研究所長は、第二案と第三案を並行して進めることを決定した。
その際、魔法回路研究室の代表から、次の意見が提出された。
「古代の装置が現行の魔法体系と異なる仕組みで動作しているとしても、それは単に失われた魔法技術である可能性が高い。王国の魔法体系そのものを疑う必要はない」
これに対し、ユリウスは次のように回答した。
「魔法体系を否定する必要はない。ただし、現在の体系で説明できない現象が存在するなら、その範囲を明らかにする必要がある」
議事録によれば、アレンは会議の大半で発言していない。
発言を求められた際も、既存の理論の正誤については意見を述べず、実験計画の修正案だけを提出した。
その修正案は、以下の三点だった。
- 測定器が反応する条件を、測定器ごとに分けて記録する。
- 装置が動いた時間と、測定器が反応した時間を独立して記録する。
- 実験結果が予測と一致しなかった場合、記録を削除せず、予測の修正履歴を残す。
この提案は全会一致で採用された。
後に研究所の実験規定に追加された「測定記録の独立保存」は、この会議を起点としている。
### 【資料83】旧式測定器・構造比較実験報告書
実施期間:王国暦758年7月29日〜8月2日
実験責任者: ユリウス・フェルナー
技術担当: アレン・ヴァルハイト
目的: 旧式測定器が現行型では確認できない反応を示す原因の特定。
比較対象となった測定器は、旧式の第六型と現行型の第十二型である。
両者は、魔力を検出する結晶部の基本構造を共有していた。
しかし、信号を処理する部分には大きな違いがあった。
第十二型は、一定の基準を超えた反応を魔力として記録する方式を採用している。
一方、第六型は、結晶部に生じた微細な変化を、機械的な振動へ変換する構造を持っていた。
この違いにより、第六型は現行型では数値として表示されない変化を、針の揺れとして示す場合があった。
実験結果:
| 実験条件 | 第六型 | 第十二型 |
| ---------- | -------- | ----------- |
| 通常の魔力を測定 | 反応あり | 反応あり |
| 微弱な魔力を測定 | 微弱な反応 | 反応なし、または不安定 |
の近傍 | 不規則な反応 | 明確な反応なし |
| 装置から離れた場所 | 一部で微弱な反応 | 明確な反応なし |
結論:
第六型の反応がすべて有意な現象を示しているとは限らない。
しかし、第十二型が反応を示さない条件で、第六型が一定の変化を示す事例が確認された。
したがって、旧式測定器の反応を、単純に故障や誤差として扱うことは適切ではない。
調査の過程で、アレンは第六型の構造図に修正を加えた。
彼の修正は、測定器の精度を高めるためのものではなかった。
測定器が何に反応したのかを区別しやすくするための改良だった。
測定器の表示部を二系統に分け、一方には従来の魔力測定値を、もう一方には結晶部の微細な変動を記録する仕組みである。
この改良型は、研究所内で「二重記録式測定器」と呼ばれるようになった。
### 【資料84】二重記録式測定器・初回測定記録
測定日:王国暦758年8月4日
対象者: アレン・ヴァルハイト
測定場所: 王立魔道具研究所・第三実験室
測定機器: 二重記録式測定器・試作一号機
測定結果:
第一系統:通常魔力測定
## 検出限界以下
従来の判定基準では、魔力反応なし。
第二系統:微細変動記録
## 変動を複数回記録
通常の魔力測定値との直接的な対応は未確認。
追加試験:
測定器を交換し、同じ条件で再測定した。
結果は同一ではなかったものの、微細変動は複数回確認された。
ただし、アレンが装置に近づいた場合と、装置から離れた場合とでは、変動の頻度に差が生じることがあった。
研究班は、測定器の個体差、室内環境、装置との位置関係など、複数の要因を検討した。
最終所見:
アレン・ヴァルハイトから、通常の測定基準における魔力は検出されなかった。
一方、二重記録式測定器は、通常の魔力測定では記録されない微細な変動を示した。
この変動が何を意味するのかは不明である。
アレン本人は、結果を確認した後、次のように述べたと記録されている。
> 「これで分かったのは、測定器が変化を記録したということだけです。
>
> 何が原因なのかは、まだ分かりません」
この発言は、研究班の公式報告書にも引用された。
### 【資料85】王宮顧問会議・閲覧許可通知
発行日:王国暦758年8月7日
王立魔道具研究所による二度目の申請を受け、王宮顧問会議は、対象資料の限定的な閲覧を認めた。
ただし、許可されたのは、旧式測定器に関する技術記録の一部に限られていた。
閲覧条件は以下の通りである。
一、文書の複写を禁止する。
二、原文を変更しない。
三、閲覧した情報を、王宮の許可なく公表しない。
四、現行の魔法体系に関する機密情報が含まれている場合、別途審査を受ける。
五、閲覧内容に関する研究報告は、王立魔道具研究所を通じて提出する。
通知書には、閲覧が認められた理由も記されていた。
> 「申請者らが提出した比較実験の結果により、対象資料が単なる旧式魔道具の製造記録ではなく、測定技術の歴史的検証に関係する可能性が認められたため」
閲覧日は王国暦758年8月10日と定められた。
アレンは、この通知を受け取った後、研究ノートに次の一文を記している。
> 「答えがあるとは限らない。
>
> それでも、答えがあるかどうかを確かめることはできる」
### 【資料86】王都地下文書庫・限定閲覧記録
閲覧日:王国暦758年8月10日/立会人:王宮秘記管理官二名
閲覧対象: 第六型魔力測定器・追加記録簿、別冊一。
閲覧者: ユリウス・フェルナー、アレン・ヴァルハイト。
記録の概要:
別冊一には、旧式測定器の製造記録、試験結果、測定異常の報告が収められていた。
大半は、当時の技術者が残した通常の業務記録だった。
しかし、巻末に近い箇所に、他の記録とは異なる様式の文書が綴じられていた。
文書の日付は王国暦650年。
現在の王国魔法学院が設立されるよりも前のものである。
文書表題: 「魔力測定の対象外にある変動について」
記録者: 不明。
文書抜粋:
> 我々が測定しているのは、生命体が保持し、術式によって放出する力である。
>
> その力を測る方法は、一定の精度に達した。
>
> しかし、測定器が反応する現象のすべてが、生命体の魔力によって生じているとは限らない。
>
> 大地、空、鉱石、古代装置。
>
> それらに共通して現れる微細な変動について、現在の測定体系では分類できない。
>
> この変動を魔力と呼ぶべきかどうかは、まだ判断できない。
>
> 少なくとも、魔力の量を測るための道具だけで、すべてを説明しようとするべきではない。
文書の末尾には、別の手による追記があった。
> 「本件の研究は中止する。
>
> 測定対象の再定義は、現行の魔法教育制度および貴族家系の適性評価に影響を及ぼす可能性がある。
>
> 記録は技術資料として保管し、一般研究への転用を認めない」
中止命令の発行者は記載されていなかった。
また、この命令がどのような経緯で出されたのかを示す会議記録も、別冊一には含まれていなかった。
閲覧を終えた後、ユリウスは文書の内容を研究報告書にまとめた。
アレンは、文書の記述と《星脈観測器》の観察記録を比較するよう求めた。
その結果、両者にはいくつかの共通点が見つかった。
- 通常の魔力測定では説明できない微細な変動。
- 生物だけでなく、鉱石や古代装置にも見られる現象。
- 現象の存在は記録されているが、その原因は特定されていない。
- 研究対象の定義そのものが、途中で制限された形跡。
これらの一致は、古代装置と旧式測定器の間に何らかの関係がある可能性を示していた。
しかし、アレンは報告書に「同一の現象である」とは記さなかった。
代わりに、次の結論を提出した。
> 「現時点では、同一の現象であると証明することはできません。
>
> ただし、異なる現象であると判断する根拠も不足しています。
>
> したがって、両者を同じ調査対象に含め、比較を続けることが適切だと考えます」
### 【資料87】王立魔道具研究所・緊急報告書
発生日時:王国暦758年8月11日/午前2時16分
前日の限定閲覧を終えた後、《星脈観測器》は通常の保管状態に戻されていた。
午前2時16分、研究所の夜間監視装置が異常を記録した。
異常記録:
- 第三実験室の二重記録式測定器が反応。
- 《星脈観測器》の第一環が回転。
- 約四秒後、第二環が回転。
- さらに約二秒後、第三環が回転。
- 三つの環が、これまで確認されていない位置で停止。
- 室温、照明、振動に顕著な変化なし。
- 室内に人の出入りなし。
- 魔力供給の記録なし。
特記事項:
環が停止した直後、二重記録式測定器の第二系統に、これまでより大きな変動が記録された。
第一系統の通常魔力測定値には、明確な反応がなかった。
異常発生から約三分後、装置の反応は消失した。
損傷: なし。
原因: 不明。
夜間監視員は、発見直後に研究主任へ報告した。
翌朝、研究班は装置の位置と環の角度を記録し、前日の実験記録と比較した。
その結果、三つの環が停止した位置は、アレンが以前に作成した古代図面の写しに記された配置と、部分的に一致することが判明した。
完全な一致ではなかった。
しかし、研究班が過去の記録を調べた限り、その配置が確認されたのは初めてだった。
さらに、環の位置関係を図面に重ね合わせると、中央部に空白が生じた。
そこには、本来、何らかの部品が存在したと考えられる空間があった。
研究班は、現存する《星脈観測器》が、古代装置の一部分だけを残したものである可能性を指摘した。
### 【資料88】アレン・ヴァルハイト提出・調査継続申請
提出日:王国暦758年8月12日
申請目的: 《星脈観測器》の構造調査の継続。
申請者所見:
> 「現存する装置が、より大きな装置の一部である可能性があります。
>
> ただし、図面と一致する部分があることだけでは、装置の全体像は分かりません。
>
> 失われた部品を推測で補うことはできますが、その推測を事実として扱うべきではありません。
>
> まずは、現存する装置が何を記録し、何に反応し、どのような条件で動くのかを確かめたいと考えます」
研究所審査結果: 承認。
ただし、装置の分解は禁止し、外部からの観察と非破壊検査を継続することが条件とされた。
申請書の末尾には、研究所長による追記がある。
> 「本研究の目的は、古代技術の復元のみではない。
>
> 現行の測定技術では分類できない現象について、検証可能な記録を蓄積することも重要である。
>
> 研究班は、従来の魔法理論に合致しない結果についても、同等の基準で保存すること」
この決定により、アレンの研究は王立魔道具研究所の正式な研究計画として認められた。
彼は、まだ何一つ解明していなかった。
自分の能力の正体も、《星脈観測器》の本来の用途も、古代文献に記された星脈の意味も、明らかにはなっていない。
それでも、彼の研究には初めて、継続的な予算と正式な協力者が与えられた。
王国の記録において、これは小さな出来事だった。
しかし、後の技術史研究では、重要な転換点として扱われることになる。
魔力を持たないと判定された少年が、魔力を測る道具の限界を明らかにし始めたからである。
## 【資料89】王立歴史院メモワール
王国暦758年8月、アレン・ヴァルハイトの研究は、王立魔道具研究所の正式な研究計画として承認された。
彼が発見したのは、魔力を超える新たな力ではない。
少なくとも、この時点でそのように断定できる証拠は存在しない。
彼が明らかにしたのは、従来の測定器が記録できる範囲には限界があり、その限界を知らずに測定結果を解釈すると、現象そのものを見落とす可能性があるということだった。
また、王都地下文書庫の機密文書からは、魔力測定の対象外にある変動について、過去にも研究が行われていたことが判明した。
その研究は、原因が解明されないまま中止されていた。
中止の理由は、現在も不明である。
しかし、研究を再開するための条件は整いつつあった。
アレンには研究の場が与えられた。
ユリウスには、従来の理論にとらわれずに検証を進める協力者ができた。
サミュエルには、結果だけでなく、失敗や未解決の問題も保存する役割が与えられた。
そして、《星脈観測器》は、これまで誰も見たことのない配置で環を停止させた。
その三日後、王立魔道具研究所には、王宮から一通の召喚状が届いた。
宛先は、ユリウス・フェルナー研究主任。
同時に、別の一通がアレン・ヴァルハイトに送付されていた。
召喚状には、理由が記されていなかった。
ただし、発行部署の欄には、通常の研究案件では使用されない名称があった。
王宮顧問会議・魔法体系特別調査部。
アレンの追放から、まだ半年も経過していなかった。
彼の研究は、すでに王国の機密領域へと足を踏み入れ始めていた。




