第七話:黒髪の少女
静寂。
時計塔の空気が、一瞬で張り詰める。
「教会の者です」
扉の向こう。
落ち着いた青年の声。
ノクスの視線が鋭くなる。
レグルスは、すでに腰の武器へ手をかけていた。
クロエだけが、状況を理解していない。
「……お客さん?」
「違います」
ノクスが即答する。
「クロエ」
「奥へ」
「えぇ?」
「今すぐに」
珍しく強い声。
クロエは少し驚きながらも、小さく頷いた。
その時。
「失礼」
ガチャ――
扉が、ゆっくり開く。
銀髪の青年が姿を見せた。
長い銀髪。
内側へ混ざる黒。
静かな蒼い瞳。
ノクティス・アルバ・オウル。
教会執行官。
彼は室内を見渡し――
止まった。
黒髪の少女。
目が合う。
その瞬間。
ドクン――
ノクティスの血が、激しく脈打つ。
「……っ」
息が止まる。
理由が分からない。
なのに。
目を逸らせない。
懐かしい。
暖かい。
会った事など、ないはずなのに。
クロエは、ぽかんとしていた。
「えっと……?」
「誰?」
ノクスが、一歩前へ出る。
「……無断侵入とは、随分な趣味ですね」
ノクティスは、ようやく我に返る。
「失礼」
「教会の調査です」
レグルスが低く笑った。
「調査、ね」
「ずいぶん堂々としてるじゃねぇか」
空気が冷える。
一触即発。
だが。
クロエだけが、空気を読んでいなかった。
「あ、教会の人なんだ!」
「すごーい!」
全員が止まる。
ノクス
「クロエ」
「だって初めて見た!」
クロエは、ノクティスへ近づく。
ノクティスの呼吸が止まる。
近い。
血が熱い。
本能が、跪きそうになる。
あり得ない。
目の前の少女は、ただの人間にしか見えない。
なのに。
どうして。
「……あなた」
ノクティスが、無意識に呟く。
「どこかで……」
その瞬間。
「ノクティス」
冷たい声。
セレナだった。
彼女は扉の外から、鋭い視線を室内へ向ける。
「何をしている」
空気が変わる。
クロエは小さく肩を跳ねさせた。
セレナの瞳が、クロエを見る。
黒髪。
紫の瞳。
不思議な空気。
ほんの一瞬だけ。
違和感が走る。
だが。
始祖の気配は、感じない。
「……民間人か」
セレナは静かに呟く。
ノクスは、感情を消したまま口を開いた。
「それで」
「教会が我々に何の用です?」
セレナは視線を逸らさない。
「高位吸血種反応を追っている」
「この区域で、始祖級波長を確認した」
クロエの胸が、僅かにざわついた。
始祖。
その言葉だけで。
なぜか、胸が痛む。
ノクティスは、まだクロエから目を離せないでいた。
そしてエルだけが。
扉の外で、静かに端末を見つめていた。
「……波長異常」
小さく呟く。
「対象接近時、始祖反応が安定化」
感情のない瞳が、ゆっくり細められる。
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