第六話:邂逅前夜
翌朝。
十三番街は、珍しく晴れていた。
「外出は禁止です」
時計塔の中。
ノクスが即答する。
クロエ
「まだ言ってる」
「危険です」
「昨日からそればっかりー!」
クロエは机へ突っ伏した。
昨夜から、ノクスもレグルスも様子がおかしい。
何かを隠している。
それだけは分かる。
「……買い物くらいなら」
「駄目です」
即答。
クロエは頬を膨らませる。
「ケチ」
「命に関わります」
「大げさなんだってば」
その時。
「なら俺が行く」
レグルスが壁際から口を開く。
「お前は大人しくしてろ」
「えー……」
クロエは露骨に不満そうな顔をした。
その様子を見ながら。
ノクスは静かに目を伏せる。
昨夜。
クロエは、始祖の力を使った。
無意識に。
つまり。
封印は、確実に揺らぎ始めている。
これ以上、教会へ気取られる訳にはいかない。
その頃。
教会移動区画。
「反応座標、固定されません」
エルが淡々と端末を操作する。
「始祖波長が不安定」
「観測妨害を確認」
セレナが眉をひそめる。
「……隠れているのか」
「可能性は高い」
ノクティスだけが黙っていた。
昨夜から、胸のざわめきが消えない。
まるで。
誰かが近くにいるような感覚。
「ノクティス」
セレナの声。
「顔色が悪い」
「……問題ありません」
即答。
だが。
自分でも分かる。
血が、妙に熱い。
「追加報告」
エルが静かに続ける。
「昨夜の波長変動地点周辺で、民間人目撃情報を確認」
セレナ
「内容は」
「黒髪の少女」
ノクティスの瞳が揺れる。
「年齢推定十代後半」
「危険性は不明」
エルは淡々と告げる。
「ですが」
「始祖波長発生地点と、極めて近い位置に存在しています」
その瞬間。
ノクティスの胸が、強く脈打った。
黒髪。
なぜか。
理由もなく。
その言葉だけで、心が揺れる。
一方。
時計塔。
クロエは、窓の外を見つめていた。
青空。
平和な昼。
なのに。
胸の奥が落ち着かない。
「……なんなんだろ」
昨夜から、妙な夢を見る。
燃える街。
赤い月。
大量の血。
そして。
誰かが泣いていた。
クロエは小さく頭を振る。
「変なの」
その時だった。
コンコン。
時計塔の扉が叩かれる。
空気が止まった。
ノクスの目が細くなる。
レグルスが即座に立ち上がる。
再び。
コンコン。
静かなノック音。
そして。
扉の向こうから、落ち着いた青年の声が響いた。
「教会の者です」
「少し、お話を伺っても?」
ノクティスだった。
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