第一話:静かな朝
朝だった。
窓から、
柔らかな光が差し込んでいる。
クロエは、
ソファへ埋まるように座っていた。
ぼーっとしている。
テーブルには、
まだ少し温かい紅茶。
その向かい側。
ノクスは、
大量の書類を読んでいた。
空気は静か。
だが。
どこか張り詰めている。
クロエは、
こてんと首を傾げた。
「……のくす」
「なんですか」
「おこってる?」
ノクスの手が、
ぴたりと止まる。
数秒沈黙。
「怒っていません」
「ほんと?」
「本当です」
レグルスが、
後ろから吹き出した。
「嘘くせぇ」
「顔こえーぞお前」
ノクス
「貴方は黙っていてください」
だが。
実際問題。
状況は最悪だった。
教会は確実に動く。
しかも今回は、
規模が違う。
討伐命令。
つまり。
“殺しに来る”。
ノクスは、
静かに窓の外を見た。
結界強度を上げている。
監視術式も追加した。
だが。
時間の問題だ。
その時。
クロエが、
小さく裾を引っ張った。
「……のくす」
ノクスが視線を下げる。
クロエは、
少し不安そうだった。
「わたし」
「わるいやつ?」
空気が止まる。
レグルスの笑みが消えた。
ノクスも、
一瞬だけ言葉を失う。
きっと。
昨日の言葉を、
覚えている。
災厄。
始祖。
怪物。
クロエは、
静かに俯く。
「みんな、
こわがる」
「わたし、
こわい?」
ノクスは、
ゆっくり目を閉じた。
監視者としてなら。
答えは決まっている。
危険。
封印対象。
世界級災害。
だが。
目の前にいるのは。
不安そうに、
答えを待つ少女だった。
ノクスが、
静かに口を開く。
「……確かに貴女は危険です」
クロエの肩が、
びくりと揺れる。
だが。
次の言葉は、
柔らかかった。
「ですが」
「怖いと思った事はありません」
クロエが、
ゆっくり顔を上げる。
赤い瞳が揺れていた。
ノクスは、
静かに続ける。
「貴女は、
壊したくて壊す方ではない」
「だから私は、
貴女を守ります」
クロエの瞳から、
ぽろりと涙が零れた。
その横で。
レグルスが、
露骨にニヤついていた。
「うわ」
「監視者様、
めちゃくちゃ重てぇ」
ノクス
「黙れと言っているでしょう」
少しだけ。
ほんの少しだけ。
屋敷へ、
笑い声が戻った。
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