序章:討伐命令
大聖堂は静かだった。
祈りの声すら無い。
重い沈黙だけが、
石造りの空間を満たしている。
異端管理局。
その最上層。
巨大な円卓へ、
複数の司祭達が座っていた。
空気は張り詰めている。
卓上へ置かれたのは、
一枚の報告書。
『黒翼確認』
その文字だけで、
十分だった。
老司祭が、
重く口を開く。
「……本当に、
目覚めたのか」
誰も即答できない。
完全覚醒ではない。
だが。
既に都市級災害を引き起こせる。
それだけで、
脅威としては十分すぎた。
白髪の執行官が、
静かに報告する。
「対象は幼体」
「監視者血統、
及び紅獅子レグルスによる保護を確認」
空気が僅かに揺れる。
監視者。
本来なら、
封印側の存在。
それが。
始祖を庇った。
若い司祭が、
険しい顔をする。
「裏切りでは?」
「監視者血統ごと排除すべきです」
だが。
老司祭は首を横へ振った。
「監視者無しでは、
始祖封印維持が不可能になる」
「刺激しすぎるな」
白髪の執行官が、
静かに目を伏せる。
脳裏へ浮かぶ。
泣いていた少女。
世界を壊しかけながら。
ただ、
怯えていた。
だが。
それでも。
災厄は災厄だ。
感情で判断は出来ない。
女は、
静かに言う。
「放置は危険です」
「確認された始祖因子は、
記録上最悪級」
「完全覚醒した場合――」
その先は、
誰も口にしなかった。
言う必要がない。
世界が終わる。
老司祭が、
静かに立ち上がる。
重い声だった。
「異端管理局へ正式通達」
「封印指定災厄――」
「黒翼の始祖、
討伐命令を承認する」
空気が凍った。
ついに。
教会が決断した。
始祖戦争。
その始まりを。
白髪の執行官は、
静かに祈りを閉じる。
どうか。
これが間違いではありませんように。
だが。
その願いは。
きっと、
誰にも届かない。
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