最終話:帰還
屋敷へ戻った頃には、夜明けが近づいていた。
空が少し白い。
クロエは馬車の中で眠っている。
小さな身体。
泣き疲れたのか、呼吸は静かだった。
レグルスは包帯を雑に巻きながらぼやく。
「……いてぇ」
全身傷だらけ。
魔力焼けまで起こしている。
ノクスはそんな彼を静かに見ていた。
「無茶をしましたね」
「誰のせいだと思ってんだ」
「貴方が勝手に突っ込んだのでしょう」
「止めろよそこは」
「止まりましたか?」
「止まんねぇな」
即答だった。
ノクスは小さく溜息を吐く。
だが、その目はどこか柔らかい。
レグルスが眠るクロエを見ながら呟く。
「……怖かったんだろうな」
ノクスは答えない。
だが、彼も理解していた。
あれは暴虐ではない。
恐怖。
ただ怯えた結果の暴走だった。
レグルスが頭を掻く。
「ガキが泣いて暴れたら、世界壊れかけましたーって」
「笑えねぇぞ」
ノクスは静かに窓の外を見た。
赤い月は、もう沈み始めている。
「……もう」
低い声。
「隠し切れません」
レグルスの顔から笑みが消える。
教会は確認した。
黒翼の始祖。
その存在を。
もう以前のように、密かに守る事は出来ない。
これから始まる。
監視。
追跡。
討伐。
そして――
戦争。
レグルスが深く息を吐いた。
「……面倒なモン拾ったなぁ」
ノクスは静かにクロエを見る。
眠る少女。
封印から零れ落ちた始祖の欠片。
世界を滅ぼす可能性。
それでも。
守ると決めた。
ノクスは小さく目を伏せる。
「えぇ」
「ですが」
「今更、手放す気もありません」
レグルスが少しだけ笑った。
「違ぇねぇ」
馬車は静かに屋敷へ帰っていく。
長い夜を終えて。
そして――
もっと長い戦いの始まりへ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
第二章はこれにて完結です。
クロエの覚醒によって動き出した運命は、まだ始まったばかり。
黒翼の秘密、教会の思惑、そして世界を揺るがす戦いが待ち受けています。
物語は第二部へ。
引き続きお楽しみいただければ幸いです。
――第三章へ続く




