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黒翼契約譚《レイヴン・クロニクル》 IF:血月の黙示録  作者:
第二章:黒翼幼年記

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第十五話:紅獅子

暴風だった。


黒い魔力が、夜を喰い潰していく。


森が裂ける。


大地が沈む。


空間そのものが、悲鳴を上げていた。


それでも。


レグルスは、クロエを離さない。


少女の身体は、酷く震えていた。


怖い。


苦しい。


止められない。


その感情が、暴走を加速させる。


ノクスが、術式を展開し続けていた。


「レグルス!!」


「限界です!!」


拘束術式が、次々砕ける。


始祖の力が強すぎる。


完全覚醒すれば、この一帯ごと消し飛ぶ。


白髪の執行官も、息を呑んでいた。


理解してしまった。


今ここで、止めなければ。


街が死ぬ。


人が死ぬ。


世界が壊れる。


だから女は、静かに剣を向ける。


「……討伐します」


騎士達が、一斉に術式を展開。


対始祖殲滅陣。


空気が震える。


だが次の瞬間。


ドォン!!


紅い魔力が、真正面から吹き飛ばした。


騎士達が、まとめて地面へ叩きつけられる。


白髪の執行官が、目を見開いた。


レグルスだった。


片腕は裂け。


全身血塗れ。


それでも。


クロエの前へ立っている。


獣みたいな赤い瞳が、教会側を睨みつけた。


「……誰に」


低い声。


怒りを噛み殺した声。


「誰に剣向けてんだ」


空気が変わる。


白髪の執行官が、険しい顔をする。


「正気ですか、紅獅子」


「それは災厄です」


「既に制御不能――」


「だからなんだ」


即答だった。


レグルスは、振り返らない。


ただ。


クロエを庇うように立つ。


「怖がってんだろうが」


クロエの瞳が、僅かに揺れる。


レグルスは、小さく舌打ちした。


「……ったく」


「ガキ一人、まともに守れねぇで」


「何が教会だ」


騎士達が、殺気立つ。


だが。


レグルスは笑った。


獰猛に。


紅獅子の笑み。


「来いよ」


「この子に触れたきゃ――」


「まず俺を殺してからにしろ」


その瞬間。


クロエの暴走魔力が、一瞬だけ止まった。


少女が、震えながら顔を上げる。


「……れぐるす」


レグルスは、振り返らないまま笑う。


「あ?」


クロエの声は、泣きそうだった。


「……なんで?」


どうして。


怖くないの。


化け物なのに。


壊れるのに。


レグルスは、少しだけ黙ったあと。


当たり前みたいに言った。


「拾っただろ」


「なら最後まで面倒見る」


その言葉で。


クロエの瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちた。

読んでいただきありがとうございます!


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