第十二話:遭遇
馬車が揺れる。
夜道。
森を抜ける旧街道は、
人通りも少ない。
レグルスは、
御者台で欠伸をしていた。
「ねみぃ……」
ノクスは、
無言で周囲を警戒している。
その後ろ。
馬車の中から、
小さく声がした。
「……れぐるす」
「ん?」
窓から、
クロエが顔を出している。
月明かりに照らされた赤い瞳。
どこか、
楽しそうだった。
「そと、いっぱいある」
「当たり前だろ」
「……すごい」
その反応が、
あまりにも子供で。
レグルスは、
少しだけ黙る。
本当に。
何も知らないんだな、
と思った。
その時。
ノクスの視線が、
鋭く細まる。
止まった。
空気が。
「……来ます」
低い声。
次の瞬間。
ガァンッ!!
前方へ、
巨大な光槍が突き刺さった。
馬が暴れる。
クロエが、
びくっと肩を震わせた。
「……っ」
レグルスが即座に立つ。
「敵か」
森の奥。
白銀の外套。
複数。
教会騎士。
その中央。
白髪の女が、
静かに前へ出る。
異端管理局、
執行官。
冷たい金色の瞳が、
真っ直ぐクロエを見た。
「……確認しました」
「始祖反応一致」
空気が凍る。
クロエは、
状況が分かっていない。
ただ。
本能だけが、
警告していた。
怖い。
白髪の女が、
静かに告げる。
「監視者ノクス」
「その個体を引き渡しなさい」
ノクスは、
一歩前へ出た。
「断ります」
即答。
女の目が細まる。
「貴方は理解しているはずです」
「それは災厄です」
「世界を滅ぼす、
黒翼の始祖」
クロエが、
小さく震える。
“災厄”。
“始祖”。
知らない言葉。
でも。
自分へ向けられている事だけは、
分かった。
レグルスが、
前へ出る。
「言い方ってもんがあんだろ」
「ガキびびってんぞ」
女は、
僅かに眉を顰めた。
「……情を抱いたのですね」
「だから監視者は信用できない」
空気が軋む。
騎士達が、
一斉に武器を構えた。
対始祖兵装。
その瞬間。
クロエの瞳が、
僅かに揺れる。
赤から。
より深い、
血色へ。
ノクスが、
即座に振り返った。
「クロエ様」
その声だけが、
唯一柔らかかった。
「大丈夫です」
だが。
クロエの耳には、
もう半分も届いていなかった。
怖い。
怖い。
怖い。
黒い羽根が、
一枚。
夜へ舞い落ちた。
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