第十話:反応なき欠片
始まりは、
数年前だった。
地下深部。
封印監視室。
無数の術式が、
静かに脈動している。
監視者血統。
代々、
始祖封印を管理する一族。
その中心で。
ノクスは、
ゆっくり目を開いた。
赤い光。
封印反応。
あり得ないほど、
微弱。
だが。
“始祖因子”だった。
ノクスの表情が、
僅かに変わる。
「……封印揺らぎ?」
有り得ない。
封印は正常。
本体も眠っている。
なのに。
何かが、
外へ零れ落ちた。
その感覚だけがあった。
ノクスは、
静かに立ち上がる。
胸元の紋章が、
赤く発光していた。
血統が告げている。
“探せ”と。
だが。
見つからなかった。
数ヶ月。
一年。
そして数年。
始祖反応は、
現れては消える。
まるで。
世界を彷徨う、
迷子みたいに。
ノクスは、
密かに探し続けた。
教会へ知られれば、
討伐対象になる。
だから。
誰にも言わず。
独りで。
「……どこにいるのですか」
返事は無い。
ただ。
時々。
雨の日だけ、
反応が強くなる。
まるで。
泣いているみたいに。
そして。
ある夜。
「なんで俺が買い出し行かされんだよ……」
屋敷へ帰ってきたレグルスが、
露骨に機嫌悪そうに扉を開けた。
ノクスは、
静かに紅茶を飲んでいる。
「貴方が暇そうでしたので」
「絶対許さねぇ……」
だが次の瞬間。
ノクスの動きが止まった。
血が騒ぐ。
始祖因子。
しかも。
今までで最も近い。
レグルスが、
肩へ担いでいた。
小さな少女。
黒髪。
赤い瞳。
そして。
ぽつりと落ちた、
黒い羽根。
ノクスの瞳が、
ゆっくり見開かれる。
見つけた。
いや。
“見つかってしまった”。
数年間探し続けた、
始祖の欠片。
少女は、
ぼんやりノクスを見た。
「……のくす?」
初めて呼ばれた。
なのに。
なぜか。
ずっと前から、
知っていた気がした。
ノクスは、
静かに片膝をつく。
血統が理解してしまう。
この存在は。
監視すべき災厄。
けれど同時に。
“守らねばならないもの”だと。
レグルスが、
嫌そうな顔で言う。
「……なぁ」
「これ、
拾っちゃダメなやつじゃねぇ?」
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