第七話:始祖観測記録
石造りの大聖堂。
静寂。
祈り。
蝋燭の灯。
その地下深く。
教会直属機関――『異端管理局』。
円卓を囲むように、数人の人影が座っていた。
空気は重い。
卓上には、一枚の黒羽が置かれている。
焦げていた。
まるで存在そのものが焼けているかのように。
老司祭が低く呟く。
「……再観測されました」
誰も返事をしない。
その単語がどれほど危険か知っているからだ。
若い神官が震える声で言った。
「まさか……“始祖”なのですか」
沈黙。
やがて白髪の女が静かに資料を開く。
「封印座標、依然変化なし」
「本体は眠っています」
「ですが――」
女の瞳が細まる。
「欠落反応を確認」
空気が変わった。
欠落。
つまり。
封印から“何か”が漏れた。
老司祭が険しい顔をする。
「……あり得ん」
「始祖封印は完全だったはずだ」
女は静かに続ける。
「実際に都市一つが消失しています」
「現場では高濃度始祖因子を観測」
「加えて――」
資料がめくられる。
そこに描かれていたのは。
黒い翼。
そして。
赤い月。
神官の顔色が変わる。
「血月……」
古い伝承。
世界を滅ぼす終焉の象徴。
“黒翼の始祖”。
老司祭が静かに祈りを握り潰した。
「……討たねばならん」
「本体が目覚める前に」
その時。
別の神官が恐る恐る口を開く。
「しかし……報告では」
「観測対象は幼い少女の姿だったと」
数人が沈黙する。
女だけが静かに目を伏せた。
「だから危険なのです」
「始祖は人の姿で人へ紛れ込む」
「情を抱けば、必ず判断を誤る」
その言葉に。
誰も反論できなかった。
地下空間の奥。
巨大な扉が静かに映し出される。
封印兵装庫。
長い年月、一度も使用されなかった対始祖兵器。
老司祭が重く告げる。
「……始祖戦争準備を開始せよ」
「総力をもって“偽りの始祖”を討伐する」
その瞬間。
卓上の黒羽が、ぱきりと砕けた。
まるで。
“彼女”が。
聞いていたかのように。
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