第六話:始祖様、迷子になる
朝だった。
珍しく、屋敷へ静かな光が差し込んでいる。
クロエは、大きな窓の前で目を輝かせていた。
「……きれい」
朝日。
長い封印の欠片として生まれた彼女にとって、外の世界は全部が新鮮だった。
レグルスは、ソファでだらけている。
「ガキかお前」
クロエ
「がきじゃない」
「……たぶん」
「またそれ言ってる」
ノクスは、静かに紅茶を置いた。
「本日は外出禁止です」
クロエ
「えー」
即座に不満顔。
ノクスは淡々と続ける。
「貴女は非常に目立ちます」
「加えて、現在は極度の不安定状態です」
クロエは、むぅ……と頬を膨らませた。
「だめ?」
「だめです」
「ちょっとだけ」
「だめです」
レグルスが、横で笑いを堪えている。
クロエは、じーっとノクスを見る。
上目遣い。
数秒。
ノクス
「……だめです」
ちょっと遅かった。
レグルス
「今揺らいだだろお前」
「揺らいでません」
だが。
数時間後。
クロエの姿は、屋敷から消えていた。
沈黙。
レグルス
「……あー」
ノクス
「…………」
空気が怖い。
レグルスが、恐る恐る聞く。
「……逃げた?」
ノクスは、静かに立ち上がった。
「探します」
その声が低い。
完全に怒っている。
一方その頃。
クロエは、街を歩いていた。
「……おぉ」
目がキラキラしている。
パン屋。
花屋。
市場。
全部初めてだった。
クロエは、露店の串焼きをじーっと見つめる。
店主が苦笑した。
「嬢ちゃん、食うか?」
クロエ
「いいの?」
「おう」
クロエは、ぱくりと食べる。
数秒。
「……おいしい!!」
感動していた。
その頃。
ノクスは、異常な速度で街を歩いていた。
周囲の吸血鬼達が、静かに道を空ける。
怖い。
完全に怖い。
レグルスが隣で呟く。
「お前、保護者か?」
「監視役です」
「保護者だろそれ」
その時。
ぴたり。
ノクスの足が止まる。
視線の先。
クロエが、幸せそうに串焼きを食べていた。
レグルス
「いた」
クロエも気づく。
「あ」
ノクス
「クロエ様」
静かな声。
だが。
めちゃくちゃ怒ってる。
クロエは、びくっと肩を震わせた。
「……ごめんなさい」
即謝罪。
レグルスが吹き出す。
「完全に親子じゃねぇか」
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