第五話:始祖様、お風呂へ入る
「……くさい?」
クロエが、しょんぼりしていた。
レグルスは、露骨に顔を逸らす。
「いやまぁ……雨ん中いたしな」
ノクスは、静かに紅茶を置いた。
「お風呂へ入りましょう」
「おふろ?」
知らない単語だった。
ノクスとレグルスが、同時に固まる。
レグルス
「は?」
「お前、風呂知らねぇの?」
クロエは、こてんと首を傾げた。
「……?」
ノクスは、静かに目を閉じる。
始祖。
封印の欠片。
常識欠如。
頭では理解していた。
だが実際に来ると、普通に困る。
レグルスが、呆れたように笑う。
「お前ほんと何なんだよ……」
数十分後。
浴室。
クロエは、湯気を見て固まっていた。
「……もくもくしてる」
「熱いので気を付けてください」
ノクスが淡々と説明する。
クロエは、恐る恐る湯へ指を入れた。
ぴくっ。
「……あったかい」
少し嬉しそうに笑う。
その顔を見て。
ノクスは、ほんの少しだけ目を細めた。
レグルスは、入口から覗き込みながらニヤつく。
「ガキだなぁ」
クロエ
「がきじゃない」
「……たぶん」
「たぶんって何だよ」
その後。
問題が起きた。
「……のくす」
「髪、あらえない」
沈黙。
レグルスが吹き出した。
「ぶはっ!!」
「お前マジか!!」
クロエは、むすっと頬を膨らませる。
「わらうな」
ノクスは、静かに息を吐いた。
「……こちらへ」
クロエは、素直に椅子へ座る。
長い黒髪が、さらりと流れ落ちた。
ノクスは、静かに髪へ触れる。
柔らかい。
細い。
まるで夜そのものみたいな髪。
クロエは、気持ちよさそうに目を閉じた。
「……のくす、うまい」
レグルス
「お前慣れてんなぁ?」
ノクス
「黙っていてください」
だが。
耳が少し赤い。
レグルスは、それを見逃さない。
「お前さては――」
ノクス
「黙っていてください」
圧が強くなった。
数十分後。
風呂から出たクロエは、ふわふわしていた。
頬が赤い。
眠そう。
そして。
着替え。
ノクスが用意した服を見て、レグルスが真顔になる。
「……おい」
黒を基調にした、ゴシック調ワンピース。
細かなフリル。
赤いリボン。
黒羽モチーフ。
どう見ても。
趣味全開だった。
レグルス
「お前の趣味だろこれ」
ノクス
「始祖様に相応しい服です」
「絶対趣味だろ」
クロエは、きょとんと服を見る。
「……かわいい」
ノクス
「ありがとうございます」
即答だった。
レグルスが、腹を抱えて笑い始める。
「お前もう隠す気ねぇだろ!!」
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