第四話:偽りの始祖
夜は静かだった。
雨も止み。
古い屋敷には、暖炉の音だけが響いている。
クロエは、ソファで丸くなって眠っていた。
毛布に埋もれた小さな身体。
無防備な寝顔。
とてもじゃないが、“災厄”には見えない。
レグルスが、暖炉前で足を組む。
「……で?」
「結局なんなんだよ、あのガキ」
向かいに座るノクスは、静かにクロエを見ていた。
長い沈黙。
そして。
「……始祖です」
「は?」
「いや待て」
「始祖って、あの始祖か?」
ノクスは頷く。
「我々の血統が、代々封印管理してきた存在」
「血月の怪物」
「災厄そのものです」
レグルスは、しばらく真顔だった。
そして。
「……アレが?」
ソファを見る。
クロエは寝ながら、もぞもぞ動いていた。
「……おなかすいた」
「寝言で腹減ってんじゃねぇよ」
ノクスは、小さく目を伏せる。
「……ですが、完全ではありません」
「封印は、今も継続しています」
レグルスの眉が動く。
「じゃあ何だよ」
「分身か?」
ノクスは、静かに首を振った。
「……欠片です」
暖炉が、ぱちりと鳴る。
「長い封印の中で、始祖の一部が零れ落ちた」
「恐らく彼女は、そこから発生した存在」
レグルスが、クロエを見る。
小さい。
幼い。
無防備。
なのに。
時々、本能が悲鳴を上げる。
“アレは危険だ”と。
ノクスは、静かに続ける。
「記憶も欠落しています」
「始祖としての自覚も、殆ど無いのでしょう」
「ですが」
ノクスの瞳が、僅かに揺れた。
「力だけは、本物です」
その時。
クロエが、寝返りを打つ。
毛布が落ちた。
白い首筋。
細い肩。
そして。
背中に浮かぶ、黒い紋様。
レグルスの顔から、笑みが消える。
見た瞬間、理解してしまった。
“格が違う”。
吸血鬼としての本能が、絶対服従を訴えてくる。
ノクスですら、目を逸らせない。
だが次の瞬間。
クロエが、眠そうに目を開けた。
「……?」
数秒ぼーっとして。
レグルスと目が合う。
「……れぐるす」
「おなかすいた」
「またかよ」
クロエは、眠そうなまま手を伸ばす。
子供みたいに。
レグルスは、数秒固まって。
「……チッ」
結局。
頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
クロエが、少し嬉しそうに笑う。
その光景を見て。
ノクスは、静かに目を閉じた。
本来なら。
始祖は、崇めるもの。
恐れるもの。
管理するもの。
なのに。
どうして。
こんなにも。
“守りたい”と、思ってしまうのだろう。
読んでいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたら、
ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
引き続き「レイヴンクロニクル」をよろしくお願いします!




