第二話:拾ったのは誰だ
「ノクスー!!」
屋敷へ響く、レグルスの声。
深夜。
しかも雨。
静寂だった屋敷の空気が、一瞬で壊された。
廊下の奥から、黒衣の男が現れる。
黒髪。
無表情。
静かな赤い瞳。
ノクスは、レグルスを見る。
次に。
肩へ担がれている少女を見る。
そして。
数秒、完全に止まった。
「おい?」
ノクスの瞳が、僅かに揺れる。
それは。
初めて見るほど、分かりやすい動揺だった。
「……貴方」
「何を、拾ってきたのですか」
「知らねぇよ」
「路地に落ちてた」
「腹減ったってうるせぇから」
ノクスは、静かに少女へ近づく。
その瞬間。
ドクン――
血が脈打った。
ノクスの顔色が、僅かに変わる。
“分かってしまった”。
あり得ない。
封印は、正常なはずだった。
なのに。
目の前にいる。
始祖の欠片が。
少女は、ぼんやりノクスを見る。
「……きれい」
「は?」
「かみ、きれい」
ノクスは、一瞬だけ目を見開いた。
次の瞬間。
少女が、ふらりと倒れる。
ノクスが即座に抱き止めた。
軽い。
異常なほど。
そして。
空腹。
始祖特有の、危険な飢餓状態。
ノクスは低く呟く。
「……まずいですね」
「なんなんだよコイツ」
ノクスは答えない。
言えるはずがなかった。
この少女が。
自分達の血統が、代々監視し続けてきた存在だなど。
ノクスは、静かに少女の頬へ触れる。
冷たい。
まるで。
長い眠りから、無理やり切り離されたみたいに。
少女は、薄く目を開ける。
「……おなかすいた」
「またそれかよ」
ノクスは、小さく息を吐いた。
「……血を用意してください」
「は?」
「彼女は、通常の食事では満たされません」
レグルスの顔が引きつる。
「いや待て」
「マジで何拾ってきた俺?」
ノクスは、静かに少女を見下ろす。
少女は、彼の服を弱く掴んだ。
不安そうに。
まるで。
捨てられた子供みたいに。
ノクスの胸が、僅かに痛む。
あり得ない。
始祖へ、そんな感情を抱くなど。
だが。
目の前の存在は。
あまりにも幼く。
あまりにも無防備だった。
少女が小さく呟く。
「……ここ、どこ?」
ノクスは、ほんの少しだけ迷って。
静かに答えた。
「……貴女の、帰る場所です」
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