第二十四話: 黒銀の始祖
黒銀の翼。
それは始祖でもなく、眷属でもない。
“異質”。
教会観測班の悲鳴が、十三番街へ響いていた。
『未確認個体の出力急上昇!!』
『危険度判定、再設定不能!!』
『第二始祖級反応を確認!!』
空気が震える。
ノクティスはクロエを抱き寄せたまま、静かに空を見上げていた。
赤い瞳。
揺れる黒銀の翼。
その姿は、どこか昔の始祖に似ていた。
ノクスの瞳が、わずかに揺れる。
「……まさか」
レグルスも笑みを消していた。
「おいおい」
「冗談だろ」
クロエの血を、ここまで受け継ぐ存在など本来あり得ない。
だが。
目の前にいる。
エルが静かに解析を続ける。
「始祖因子、異常増幅」
「対象ノクティス、血統変異進行中」
「現在、極めて不安定です」
セレナが槍を握る。
「……制御できるのか」
誰も即答できなかった。
ノクティス本人ですら、理解していない。
身体の奥が熱い。
力が溢れてくる。
なのに、不思議と恐怖はなかった。
腕の中にいる少女が、震えているから。
ただ、守りたかった。
クロエが不安そうに見上げる。
「ティス……」
ノクティスは、そっと彼女の頭を撫でた。
「大丈夫です」
「怖がらなくていい」
その瞬間。
ノクスとレグルスが同時に固まった。
クロエも目を丸くする。
「……え?」
今の言葉。
昔、クロエが幼いノクティスへ言った言葉だった。
ノクティス自身も気づき、少し息を止める。
記憶が流れ込む。
黒い羽根。
優しい手。
暖かい血。
『怖がらなくていい』
『もう独りじゃない』
頭が痛い。
だが。
今だけは壊れるわけにいかなかった。
その時。
上空魔法陣が、ついに完成する。
ゴォォォォン――
巨大な光輪が、ゆっくり回転を始めた。
エルが即座に警告する。
「始祖拘束術式、起動」
「超高密度聖属性反応を確認」
次の瞬間。
空から。
純白の光柱が、時計塔へ降り注いだ。
「来るぞ!!」
轟音。
世界が白へ染まる。
クロエは思わず目を閉じた。
だが。
熱くない。
恐る恐る目を開ける。
そこには。
巨大な黒銀の翼を広げ、光柱を真正面から受け止めるノクティスの姿があった。
「……っ」
全身が軋む。
聖属性が、吸血鬼の身体を焼いていく。
それでも。
一歩も退かない。
教会側が動揺し始める。
『拘束術式が止められている!?』
『有り得ない!!』
『始祖級二体を確認!!』
ノクティスは焼ける腕を押さえながら、ゆっくり笑った。
「……返す気、ないんで」
その瞬間。
ノクティスの背後で。
巨大な赤月が、ゆっくり輝きを増した。
読んでいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたら、
ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
引き続き「レイヴンクロニクル」をよろしくお願いします!




