第二十二話:始祖拘束術式
空が、赤く染まっていた。
十三番街上空。
幾重にも重なる巨大魔法陣。
対始祖拘束術式。
教会が、本気で“始祖討伐”へ動いている証。
セレナの表情が険しい。
「……こんな規模、都市ごと消し飛ぶぞ」
エルが静かに補足する。
「術式出力、危険領域へ到達」
「始祖殲滅を最優先としている模様」
つまり。
巻き添えなど、最初から考慮していない。
クロエは、ぎゅっと拳を握った。
「なんで……」
「そんな事……」
ノクスが静かに言う。
「彼らは恐れているのです」
「貴女を」
クロエは、少し悲しそうに目を伏せた。
ノクティスが前へ出る。
「俺が止めます」
セレナが振り返る。
「無茶だ」
「相手は教会本隊だぞ」
ノクティスは、静かに空を見上げた。
不思議だった。
怖くない。
むしろ。
血が熱い。
始祖の力が、身体の奥で脈打っている。
クロエが、不安そうに彼の袖を掴む。
「ティス……」
その呼び方に。
ノクティスの瞳が、少しだけ柔らかくなる。
「大丈夫です」
「貴女は、ここにいてください」
レグルスが鼻で笑う。
「随分サマになってきたじゃねぇか」
ノクティス
「茶化さないでください」
「いや? 割と本気で言ってる」
レグルスは壁へ寄りかかったまま、目を細める。
「最初はただのガキだったのにな」
その言葉に。
ノクティスが少し黙る。
記憶は曖昧だ。
だが。
この男が、昔から自分を知っているのは分かる。
ノクスが静かに前へ出た。
「……行くなら、私も同行します」
ノクティス
「え?」
「貴方一人では、まだ制御が不完全です」
淡々とした声。
だが。
そこには確かな信頼があった。
ノクティスは少し驚く。
ノクスは、ずっと自分を警戒していると思っていた。
だが。
違う。
この人は。
クロエを守ろうとしているだけだ。
そして。
今の自分が、クロエを守ろうとしている事も理解している。
レグルスがニヤつく。
「なんだよ。仲良しか?」
ノクティス
「違います」
ノクス
「違いますね」
即答だった。
レグルスが吹き出す。
「息合ってんじゃねぇか」
クロエも、思わず小さく笑ってしまう。
その笑顔を見て。
ノクスとノクティス、二人とも少し黙った。
レグルス
「分かりやす」
セレナが深くため息をつく。
「お前達、緊張感はないのか」
その瞬間。
ゴォォォン――
上空の魔法陣が、低い唸りを上げ始めた。
エルの端末へ、警告表示が走る。
「術式起動まで、残り三分」
空気が変わる。
遊びは終わりだった。
ノクスの背で、黒翼が静かに広がる。
ノクティスの瞳も、赤く染まり始めた。
そして。
クロエは、二人の背中を見つめながら。
小さく、祈るように呟いた。
「……死なないで」
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