第十九話:守る理由
「ティスは、
私が守るから」
その言葉が。
時計塔の空気を、静かに止めていた。
クロエ自身が、一番驚いている。
「……え」
口にした瞬間。
胸が痛くなるほど、懐かしかった。
ノクティスは、完全に動きを止めていた。
守る。
昔も。
あの人は。
自分へ、同じ言葉をくれた。
頭の奥で、封じられていた記憶が軋む。
暗い地下施設。
鉄の匂い。
血。
『適合率低下』
『処分対象へ移行』
幼いノクティスが、怯えながら震えている。
そこへ現れた。
黒い羽根の少女。
『この子は渡さない』
静かな声。
だが。
世界そのものを拒絶するような、圧倒的な威圧。
記憶が途切れる。
ノクティスの膝が、小さく揺れた。
「……っ」
クロエが慌てる。
「だ、大丈夫!?」
ノクスが即座に支えようとするが。
ノクティスは、クロエから目を離せなかった。
「……あなたは」
声が震える。
「なんで、俺を助けたんですか」
クロエは言葉に詰まった。
分からない。
本当に覚えていない。
だけど。
胸の奥だけが、答えを知っている。
「……放っておけ、なかったから」
その瞬間。
ノクティスの瞳が、大きく揺れる。
同じだ。
昔も。
あの人は、同じ顔で笑っていた。
セレナは、黙ってその光景を見ていた。
理解が追いつかない。
だが。
一つだけ、確かな事がある。
この少女は。
“怪物”として、誰かを拾っていた。
エルが静かに端末を閉じる。
「仮説更新」
「過去の血月災害について、再調査が必要です」
セレナ。
「……理由は」
エルは、いつも通り淡々としていた。
「現在観測中の始祖個体と、記録上の災厄行動に乖離があります」
「対象クロエは、極めて強い保護傾向を持っています」
レグルスが小さく笑う。
「やっと気づいたか」
ノクスは、静かにクロエを見つめていた。
この方は昔から変わらない。
誰かを拾い。
誰かを守り。
そして。
自分だけ傷つく。
だからこそ。
“あの日”、壊れた。
その時だった。
ガキン――!!
時計塔全体が揺れる。
セレナが即座に槍を構えた。
「敵襲!?」
エルが窓の外を見る。
「高濃度魔力反応を確認」
「教会外部部隊です」
レグルスが、盛大に舌打ちした。
「……早すぎるだろ」
ノクスの瞳が冷える。
「始祖反応を追ってきましたか」
外。
十三番街の空。
赤い魔法陣が、幾重にも展開されていた。
そして。
無数の武装聖職者達が、時計塔を包囲している。
クロエは、不安そうに窓を見る。
「……私のせい?」
その言葉に。
ノクティスが、初めて即答した。
「違う」
全員が少し驚く。
ノクティス本人も、驚いていた。
だが。
彼は真っ直ぐ、クロエを見る。
「あなたは、何も間違ってない」
クロエの瞳が、静かに揺れた。
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